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第13話

 合格発表の日は、見事な快晴に恵まれた。雲ひとつない上天気だ。  僕の心境はといえば、いっそ清々しい。落ちるなら落ちてしまえという感じだ。だって、できるだけのことはやった。春から先生と一緒に勉強してきて、とにかく今の僕に出せるすべての力を出したのだ。悔いなんてない。  これは本当に賭けだったから、僕は先生からのご褒美をひどく簡単なものにしたのだ。そのためにがんばって、得られなかったらツライ。辛すぎる。だから、万が一のときはすっぱりあきらめられるようにした。先生のことも、全部。  結果発表は、古典的な用法だ。学校の門前に張り出される。僕は一緒に行くといってきかなかった母親をふりきって、一人で見にきた。いくら母親だって、落ちこんでるところを見られたくない。慰められるなんてごめんだ。なのに。  僕の目が真っ先に見つけたのは、人ごみをうっとうしそうにかきわけて出てくる先生の姿だった。 「……なんで」  先生には、受ける高校を変えたことなど言ってなかったはずだ。 「おう」 「なんでいるの」 「おまえの母ちゃんに聞いたんだよ。俺が知らないのビックリしてたぜ」  不服そうな目で、先生が睨んでくる。この半年で、僕の背は随分伸びた。今じゃ、先生とたいして変わらない。もしかすると少し追い抜いたかもしれない。 「……なんで言わねえんだよ」  怒ったような、すねたような声だった。 「だってさ」 「だって?」 「賭けになんないだろ?」  先生は、横からぱこんと僕の頭をたたいた。 「あほう。人生がかかってんだぞ。こんなことにバクチ打ってどうすんだよ」 「あ、どうだった、僕」 「行って自分で見てこい」  こういうときの先生は、冗談みたいにポーカフェイスがうまい。あいかわらずのだるそうな顔で、僕の背を押す。  でも僕は知ってる。最悪の事態だったとき、先生は絶対にこんなふうに落ち着いてはいない。そんなに冷たい人じゃない。  僕は駆け出した。思わずにやけてしまう。  そして予想どおり、僕は春から晴れて高校生になれることが決まったのだった。  次の日、先生から連絡があった。  約束どおり、海につれてってやるので、いつがいいかという電話だった。 「いつでもいいよ、おれ、ヒマだもん」  進学が決まったあとの休みなんてすることがないに決まってる。遊ぶだけだ。 「ふうん。俺も休みに入ったからさ、いつでもいいぜ」 「じゃ、明日」 「急だな。ま、いいけど。じゃ、そうだな。十時に迎えに行くわ」 「迎えに、って、何で来るの」 「車」 「え、先生免許持ってんの?」 「持ってちゃ悪いか」 「悪くないけど。わかった。どこ行くの」 「大沢の方かな。二時間くらいで着くだろ」  電話を切って、僕は小さく息をはいた。  先生と二人で海へ行けるなんて、思わずにやけてしまうほど嬉しい。  でも。  同時にどこか、胸の内の違う場所で、すうっと冷えてゆく。  もしかして、これが最後かな。  受験前から覚悟していたことだ。  もう、賭けとか約束をすることはないだろう。  もやもやと、苦しいことを考えて過ごすのは嫌だ。どっかでケジメをつけないと、前へ進めない。  僕は決戦を待つような心境で、明日へ挑んだ。  もし受験に成功したら、これからも会ってよ、って言えばよかったな。  と、後悔しながら。

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