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第17話
僕の電話はさっさと終わった。両親ともまだ仕事でつながらなかったので、メッセージを送っておいた。先生と一緒だから大丈夫、心配しないで、明日には帰る。また連絡する。模範的な解答だ。
コーヒーが運ばれてきて、僕がミルクと砂糖をたっぷり入れて半分ほど飲み終わったところで、先生が戻ってきた。
「遅かったね、コーヒー冷めちゃうよ」
先生はイスに浅く腰掛けて、背もたれに沈みこむようにもたれた。
「……どうしたの?」
見るからに、苦渋の表情を浮かべている。苦々しげに僕を見ている。
「なんだよ、おれ、何かした?」
思わずそう訊ねてしまった。先生はもう一度、大きくため息をついた。
「……なんか俺、はめられてる気がする」
「は?」
「あのさ、おまえ、全部計算ずくってことないよな」
「何が。まさか雨のこと? 降るなんて知らなかったに決まってるじゃん。それで土砂崩れが起きるなんて。だいたい、ここに来ること決めたの先生じゃん」
「あ、そうだった」
「どうしたんだよ。部屋、なかったの」
「……あった」
「じゃ、何」
「そこの作業員」
「うん?」
「このホテルの改装しに来てんだってさ。半分くらい、直してんだってよ、部屋を」
「うん」
「本格的にシーズンに入る前に、一週間だけの予定で。そんで、ツインは全部使えないってわけ。シングルも半分」
「うん」
「で、あの作業員たちは帰れないから、まだ他にもいるらしんだけど、そいつらで残りのシングルは埋まっちまうらしいの」
僕は、先を予測して口をつぐんだ。力を入れてないと、緩んでしまいそうだからだ。
「で、申し訳ないけどって」
「ん」
あ、だめだ。にやけてしまう。
「ダブルならありますってよ」
ついに、僕は笑ってしまった。嫌そうにそう言う先生が、あんまり可愛かったからだ。
「なんで、いいじゃん。ダブルで。おれ、全然かまわないよ」
「そりゃ、おまえはいいだろうな」
「先生、嫌なの?」
「嫌ってことはないけど。だから言ってんじゃねえか。ったく、俺、追い詰められてる気分だぜ」
「天はおれに味方してるのかもね」
先生はテーブルの上にルームキーを放り出して、冷めたコーヒーを飲んだ。
すげえ。一晩、先生と同じ部屋だ。すげえ。
僕はにわかに興奮した。心臓がすごい速さで動き始めている。
このさい、勢いで何かのまちがいが起きないだろうか。
期待半分、自制半分で、僕はキーを持ち上げた。
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