5 / 11

 雨に濡れた子犬だったあの子が軒下に駆けこんだ。  あの人が居なくなってから誰も招き入れたことのないこの家に、僕は彼を招いた。  古い玄関を閉めて、僕が先に家に上がると、彼の方を向いた。彼は困った様に眉毛を下げて僕を見ている。 「こっち、ついてきて下さい」 「お、お邪魔します…」  あの雨の日から少年が大人になる年月が経ったのだろう。 「風呂場、今浴室乾燥かけてるので、ここで干せばすぐに乾きますよ」  ハンガーを渡して濡れた彼の衣服を乾かすように促し、僕は藍色の浴衣を渡す。  渡された彼はまた戸惑う、その表情が可愛くてつい笑った。 「ごめんなさい。着替え、こういうものしか無くて…」 「いえ、大丈夫です」  彼が「ありがとうございます」と頭を下げる仕草を見て、そっと洗面所のカーテンを閉めた。

ともだちにシェアしよう!