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藍色の麻布で出来ている簡単な浴衣、多分着方は温泉旅館のやつと同じだろうと適当に着る。
あの人はきっと親切でこうしてくれているのに、俺は如何わしい下心を抑えるのに必死だ。
言われた通りに濡れた衣服を浴室に干させてもらい、カーテンを開けてあの人がいるであろう部屋を気配で探す。
廊下を歩いていくと簡単に見つかった。彼は縁側の古い柱に凭 れ、雨を眺めていた。
「…あの、着物…助かりました」
俺がそう声をかけると彼は俺を見て「良かったです」と微笑んだ。
その顔は、数年前に淫らに歪んでいた人と同じものとは思えないくらいに爽やかで綺麗だった。
なのに、下心がムクムクと溢れてくる。
「急な雨、災難でしたね」
「はぁ…そ、そうですね。だから、とても助かりました…ご親切にして頂き……」
「雨はお好きですか?」
彼は雨を眺めながら訊ねてきた。
「あんま好きじゃないです、かね……不便だし、濡れちゃうし」
当たり障りない答えを返す。
「僕は好きですよ……」
「へぇ…」
「だって雨は、全てをかき消して、隠してくれますから」
「はぁ…」
とん とん とん
ギッ ギッ ギッ
彼が俺に近づく、その足音と古い床板の軋む男が妙にうるさく聞こえる。
ドッ ドッ ドッ ドッ ドクドクドク……
緊張して鼓動が速くなるし顔も熱くなるし、雨景色に映える彼がとても美しくて怖くて逃げたい、と足を一歩だけ退げようとするが、もう時すでに遅し。
彼の美しい顔が、触れてしまいそうなくらいに近くにあった。
「雨の日に、ここで淫らな声を出しても…だぁれも気付かないんです」
「…………み、みだ、らって…?」
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