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第16話 エロ刑事(※1部完結)

「マスター、この店ではマスターが誘いたい男に橋渡ししてくれるんですよね?」 「あくまでも自由恋愛ですが、お手伝いぐらいはすることがありますよ」 「俺は今晩、この隣の人を持って帰りたいんですが」    岬は思わず飲んでいた酒を吹き出しそうになった。  いきなり何を言い出すんだ。    マスターはニヤっと笑うと、岬に小さな紙袋を差し出した。  その紙袋の柄には見覚えがある。  嫌な予感がする……   「岬くん、隣の人からプレゼントを預かってますよ」    受け取った紙袋の中身は見なくても形でわかる。  ローションだ。  その紙袋はそういう道具などを売っている店のもので、ゲイのご用達なのだ。   「おいっ、なんだよ、これ!」    岬は顔を真っ赤にして、小声で織田に文句を言う。   「いや、どこに売ってるのかとさっきマスターに聞いたら、買い置きがあるからとわけてくれたんだ」    岬は呆れ返って、言葉がなかった。  あの織田がマスターとそんな話をしていたなんて、信じられない。    いや、俺は認識を改めよう。  織田はもうカタブツなんかではないのだ。  立派に新宿の住人だ。   「行くぞ」 「もう出るのか?」 「この間は時間が足りなかったから、今日こそ朝までヤり倒し……」 「馬鹿っ! 声がデカい!」    岬があわてて織田の口を塞ごうとすると、織田は素早くその手をつかまえて、ちゅっと手の甲に口付けた。  やられた。  織田にはどう抵抗しても勝ち目がない。  この店で岬はいつもクールに決めていたのに、マスターには爆笑されている。    まあいい。  こうやって織田と仲が良いところをアピールしておけば、織田を口説く輩も減るだろう。  織田は俺のものだ。自慢の彼氏なのだ。  開き直って見せびらかしてやる。  岬はそう自分を納得させるしかなかった。      織田は行き先が決まっている、というようにさっさと歩いていく。   「どこに行くんだ」 「ホテルに決まってるだろ。岬の声はよく響くから、マンションじゃあ隣が迷惑する」 「お前のせいだろ……」    反論する岬の声は尻すぼみになる。   「今日は好きなだけ声あげていいぞ」 「エロ刑事っ! お前がそういうヤツだったとはな」 「捕まえてブチ込むのが俺の仕事だ」    織田とこんなバカバカしい痴話ゲンカをする日が来るとは夢にも思わなかった。  迷わず前と同じホテルへ向かおうとする織田に、岬はふと疑問を覚える。  あのホテルはゲイのご用達のホテルだが、なぜそれを織田は知っていたんだろう。  偶然か?   「偶然なワケないだろ。調査済みだ」 「前回も知ってて連れ込んだのか?」 「計画的犯行だ」 「ヤれなかったくせに……」    岬はクックッと笑いをかみ殺した。  計画的にホテルまで連れ込んでおいて、押し倒さなかった織田はどこか純情なヤツじゃないか。   「お前に嫌われたくなかったんだよ」    織田は憮然とした顔で答えると、岬の手を引きホテルに引きずりこんだ。   「今日はあの時の雪辱戦だ。逃げるなよ」    ニヤっと笑う織田に、ああ今日からまた3日間は声が出なくなるな、と岬は思った。   【刑事は参考人にキスをした ~End~】  

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