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第24話 甘い恋人

「とりあえず……飯。どうする?」 「お前、何が食べたいの。作ってやるよ。パスタとかどう?」 「康介が……作るのか?」 「俺、料理うまいぜ。一人暮らしが長いからな。リクエストは?」 「俺はなんでもいいけど……じゃあ、パスタで」  岬の手料理なんて初めてだ。  というよりゆっくり一緒に食事をすることもあまりないのだ。 「了解。すぐできるから、テレビでも見てろよ」 「ああ、悪いな」  演技はもう始まってるんだろうか。  これも一途な恋人、という演技のうちなのかもしれない。  演技だとしても、織田はなんだか嬉しくなってきた。  台所に立って料理をしている岬をちらちらと観察する。  料理が得意だ、というのはまんざら嘘でもないらしい。本を見たりもせず、手際よくパスタを作っている。  しかし岬だけに演技をさせておくのはいかがなものか。  岬が情熱的で一途で素直な恋人を演じやすいように、一応協力してやるべきではないか、と織田はふと思う。  まあ演技力にはまったく自信はないが、女に優しくするようにしてみたらどうだろうか。  いつもは同級生のノリでケンカ腰で相手をしてばかりだから、ちょっとぐらいは恋人らしいムードに協力してやってもいいだろう。  照れてしまいそうな気持ちを隠して、織田は料理をしている岬を、そっと後ろから抱きしめてみた。  岬は驚きもせず顔だけ織田の方に振り返ると、普段見せたことのないような幸せそうな笑顔を浮かべて、織田の頬に軽く口づけをした。  ただそれだけでも、織田はすっかり舞い上がってしまう。 「もうすぐだから。待ってろよ。きのこのバター醤油パスタ」  声まで甘い。  ただでさえ美声の持ち主だが、演技でこんなに甘い声を出せるのか。 「何か手伝おうか?」 「そうだなあ……じゃあ、サラダ。盛りつけるだけだから」 「OK」  岬は鼻歌を口ずさみながらパスタの仕上げをしている。  そんな岬の横顔が可愛いなあと、織田はちらちら見とれている。  食事をしている時も岬は甲斐甲斐しく織田の世話をやいた。  料理を取り分けたり、楽しそうに織田を構う。  織田は、別に岬に家事や世話をしてもらいたいと思っているわけではないのだが、楽しそうにしている岬の姿を見るのは嬉しかった。  岬はいつになく織田がちらちらと自分を観察しているのに気付いている。  見られている、と感じると岬はテンションが上がる。  もっと甘い恋人になって、織田を骨抜きにしてやれ、などと心の中で思っている。  これは、勝負だ。 「映画でも見る?お前が見たいって言ってたやつ、借りておいたんだ」 「気が利くな。じゃ、一緒に見よう」  これは嘘ではない。本当に岬は気を利かせて借りておいたのだ。  明日どこにも出かけずに2人でゆっくり過ごすつもりで。  織田もふとそのことに気付く。  岬は案外普段から気が利いて一途なところがある。  正反対の演技をしている、とは言えないかもしれない。  いつ会えるかわからない恋人を文句も言わずに待っているようなやつだ。  意地をはったりしなければ、岬は献身的なやつだよな、と織田は改めて思う。  「飲むだろ?」  リビングのソファーに座っていた織田の前に、岬がバーボンソーダのグラスを2つ置いた。  黙っていてもさりげなく好みの酒を出してくるなんて、いかにも献身的な恋人じゃないか。 「暗くした方が迫力あるかな」  リビングには岬がこだわって買ったというオレンジ色の中間照明のスタンドが置いてある。  部屋の明かりを消してスタンドの照明だけになると、なかなかムードがある。  映画が始まると、岬は織田の肩に自分から甘えるようにもたれてきた。  『女に優しくするつもりで』織田も岬の肩を抱いて、髪をなでてみる。  映画はまだ始まったばかりだというのに、二人とも画面など見ていないのだ。  BGMの代わりみたいなものだ。  岬が織田の頬に口づけたのをきっかけに、唇が重なる。  軽く何度も唇を合わせながら岬が囁く。 「修司……映画見てるの?」 「いや、見てない」 「見たかったんだろ? これ」  岬は織田の首に手を回して、キスを深めていく。 「見れないだろ、お前とキスしてたら」 「見てていいよ。俺はキスしててあげるから」  溶けそうなぐらいに甘く絡みつく岬のキス。  自分から言い出したものの、岬の演技力は破壊的だ。  織田には太刀打ちできない。  映画を見ている余裕などあるものか。 「映画は……明日にしよう。我慢できなくなってきた」  岬のキス攻撃に織田が降伏する。  岬はクスリと妖艶な笑みを浮かべた。 「俺を抱きたい?」 「あ……ああ……ベッド行くか?」  岬は織田の両肩に手を置き、膝にまたがるようにソファーに片膝をついて耳元へ囁く。 「ここで脱がせて」  岬の囁きに抗えずに織田は、シャツのボタンをはずしていく。  織田の目の前に岬の上半身があらわになっていく。 「感じさせて……いつもみたいに」  織田の唇が目の前の突起を唇で捕らえると、岬は身体を震わせて息を漏らす。  下着ごとルーズパンツを降ろすと、織田の前で岬だけが全裸になった。  岬は織田の膝の上に座ると、頭に手を回して織田を抱きしめる。 「好きにしていいよ。俺は修司のものだから」  織田は夢中で岬をソファーに押し倒した。  衣服をぬぎすてて、濃厚なキスの応酬を交わす。

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