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第29話 一発触発

 わざわざ織田の隣のシャワーに並んだ月島は、織田の挙動不審な視線にニヤリと笑いを浮かべた。   「なんだ、ついにお前も男を意識するようになったか」 「べ、別に月島さんを意識してるわけじゃありませんよ」 「不調の原因はそのキスマークの男か」 「なんで男だと決めつけるんですかっ」 「違うのか?」    シャンプーで目を閉じている織田を挑発するように、月島は織田の首筋をなでて身体を寄せてきた。   「ちょ、ちょっと……やめてくださいよっ」    織田が飛び退くように逃げたので、月島は笑い声をあげる。   「ま、今は間に合ってるだろうが、男が欲しくなったらいつでも相手してやるぞ。お前には借りがあるからな」 「結構です! もうあんなことはカンベンしてくださいよ」 「俺はなかなかお前のは気に入ったんだがな」    月島は今度は露骨に織田のモノをなでてきた。  織田は慌てて自分のモノを守りながら逃げる。   「どうだ、マル暴に来てまた昔みたいに一緒に組まないか」 「その話はこんなところじゃなくて、署にいる時にして下さいって」    月島は以前から腕っぷしの立つ織田をマル暴に呼びたがっている。  仕事面では確かにやりがいのある部署で、昔の織田なら二つ返事で引き受けただろう。    しかし今の織田は月島の下で働くのは気が進まない。  こんな上司だとやりにくくて仕方がないだろう。  今はゲイの上司はできれば避けたい。   「用があるんでお先に失礼しますよ」 「ああ、あんまりヤり過ぎるなよ」 「月島さんに言われたくありませんよっ」    織田は逃げ出すようにシャワールームを出た。  これ以上関わっているとロクなことがなさそうだ。  月島が欲求不満じゃなくて良かったと本気で安堵した。   「今から帰るから昼飯外で食わないか? 支度して待ってろよ」    織田が電話を入れると、岬はもう起きてシャワーも浴びたのですぐに出れると言う。  それなら、と駅で待ち合わせすることになった。  駅で岬と合流してどこへ行こうかと相談していると、運悪く月島が後からやって来た。  黙って通り過ぎてくれ、と織田は心の中で願ったが、月島は笑顔を浮かべてわざわざ近寄ってくる。   「なるほど、これが織田の不調の原因くんか」    月島の不快な視線に、岬はムっとする。   「誰だよ、こいつ」 「あ、ああ……上司なんだ。同じ道場の先輩でな」 「上司? 新宿署の?」    岬はヘンだな、と思い返す。  新宿署には前の事件の時に何度か足を運んだが、こんなヤツは見かけたことがない。  キザなスーツを来て目立つ容姿だから、こんな上司がいたら覚えているはずだ。   「いや……以前の上司でな」    言葉をにごす織田の態度も不審だ。  岬もよせばいいのに、月島にくってかかる。   「俺が不調の原因ってどういうことだよ」 「織田が寝技は嫌だって言うんでね」    月島は意味深な笑いを浮かべて岬を挑発する。  明らかにからかっているのだ。  寝技、という言葉で岬はピンと来た。    こいつだ……織田を無理矢理押し倒したっていう先輩は。  こいつに違いない。    織田より強いと聞いていたから、どんなにごつい先輩かと想像していたが、こんな顔立ちをしているのなら抱けるだろう。  こういう時の岬のカンは鋭い。  岬は月島は絶対にゲイだと断定した。  しかも、このタイプは絶対に抱かれる側だ。   「なるほど、織田はこういうタイプが好みだったのか」    品定めをするような無遠慮な月島の視線に、岬はキレそうになる。  上司じゃなければケンカを売っているところだが、我慢しているのだ。   「岬は高校の同級生ですよ。月島さんも余計なこと言わないでくださいっ」    岬を怒らせると面倒臭いことになる。  織田はハラハラして一刻も早くここを離れたい。   「同級生か。じゃあ、さっきの身体中についてたキスマークの犯人じゃあないってわけね」 「つ、月島さん……カンベンしてくださいって」 「身体中って、どういうことだ」    岬は今度は織田をギロリとにらむ。   「さっき、シャワールームで偶然会ったんだよ」 「手、出したりしてねぇだろうな」    岬は織田と月島の両方をにらみながら言う。  この場合どっちが手を出す、というのかよくわからない。   「いいねぇ。キミと3人プレイなら歓迎するよ」    月島はさも愉快そうに笑い声をあげる。   「冗談じゃねぇっ。欲求不満だからって部下に手なんか出すんじゃねぇぞっ!」 「あいにくだけど、今は間に合ってるんでね。また欲求不満になったらお願いするよ」 「なんだと、この野郎……」    まずい。  岬が月島さんにかなうはずなどない。  織田は一発触発の2人の間に割って入る。   「月島さん……頼むから人をからかうのはやめて下さいよ。康介もやめとけって、俺でもこの人には敵わないんだから」 「イキがよくて可愛いなあ、まったく。チワワみたいだな、織田の恋人は」 「誰がチワワだっ! 俺は犬じゃねぇっ!」 「月島さん!いい加減にして下さい!康介も相手になるな。行こう」    噛みつきそうな勢いの岬を月島から引き離して立ち去ろうとすると、月島が追い打ちをかけるように言った。   「織田、さっきの話真剣に考えとけよ。俺はお前のいいパートナーになれる」  

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