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第30話 パートナー

「どういうことだよ……パートナーって」    カフェのランチをつつきながら、岬は不機嫌さMAXだ。  さっきから全然食べずにハンバーグをぐちゃぐちゃ突き刺している。  まったくとんだ迷惑だ……と織田はトホホな気分である。  せっかく昨晩は岬といいムードになってラブラブだったのに。   「仕事上のパートナーという話だ。異動の話が出てるんだよ」 「異動ってさっきのヤツのところへか?」 「そうだ。前々から言われてたんだが、俺はあまり気が進まない」    気がすすまない、というのは本音だ。  確かにマル暴に異動ということは本庁勤務になりそれなりに出世なのだが、織田は岬のところから近い新宿署勤務に満足していた。  それにマル暴に異動すれば、今以上に危険な捜査が多くなり、さらに忙しくなるのは目に見えている。   「気が進まないならやめとけよ! それになんでパートナーになる必要があるんだよ」 「ああ、刑事ってのはだいたい2人1組で行動することが多いんだ。1人だと危ないからな」    1人だと危ない、という織田の言葉に岬は黙り込む。  そういうことなら、さっきのヤツは織田よりずっと強いと言っていたから、いざという時に織田のことを守ってくれるかもしれないのだ。    一緒にいてお互いを守り合うことのできる刑事のペア、という話に岬は疎外感を感じる。  俺は修司をただ待っていることしかできないのに……    一週間も十日も会えない間、月島がずっと織田と2人でいることを想像しただけでも、気分が悪い。  それにまた織田にセックスを強要する可能性だってないとはいえないじゃないか。  織田が勝てない相手なんだから。   「なあ修司……俺、前から話そうと思ってたことがあるんだけど」 「なんだ?」    織田は岬が話題を変えたので、ほっとしている。  岬は少し言いにくそうに俯いて考えていたが、やがて口を開いた。   「警察の寮を出て、俺のところに来ない?」 「康介のところに一緒に住む、ということか?」 「そう。部屋も空いてるし、たいした荷物もないんだろ?新宿署だって遠くないし」 「それはなあ……」    織田は考え込んでしまう。  以前にも岬からちらっとそう言われて、考えたことはあった。    確かに岬と同居すれば楽しいし、岬はいろいろと世話を焼いてくれる。  寝るだけになってしまうかもしれないが、今よりは顔を見ることができるだろう。  少しでも家賃を払うようにすれば、岬も助かるのかもしれない。    織田が引っかかっているのは、自分が同居することによって、岬に危害が及ぶことがないか、という1点である。  特にマル暴などに異動になってしまえば、家族は絶対に足手まといになる。  マル暴勤務の刑事はほとんどが独り者か、結婚しても破綻してしまうと聞く。    ヤクザのやり口には常識は通用しないし、身内に迷惑をかけようとするのはヤツらの常套手段だ。  織田は八代組の事件に関わっている今は、できれば岬を遠ざけておきたいぐらいなのだ。   「今はムリだ。異動の件がきちんと決まったら考える」 「そっか。別に急ぐ話じゃないけど、ほんとに考えてくれる?」 「ああ、考える。今はちょっと仕事がゴタゴタしててな」  岬をライブハウスまで送り届けると、織田はいったん車を置きに戻って着替えた。  ライブまではまだ時間があるし、着替えておけば明日の朝出勤するまで岬と一緒にゆっくりできる。  思わぬ出来事で不機嫌にさせてしまった岬のご機嫌をとっておきたかった。  また明日から捜査に戻ればいつ会えるかわからない。    岬はライブを見に来てくれた織田がスーツ姿なのを見て機嫌を直した。  ライブのあとはフィレンチェで飲んでホテルへ行くというのが定番デートである。  スーツで来たということは明日の朝までは一緒にいられるのだ。  フィレンチェで久しぶりに一緒に飲んで岬が機嫌を直しているので織田はほっとした。  岬は気は短いがしつこい性格ではない。  一緒に住もうという話を蒸し返してくることもなかった。  織田がきちんと考えると言ったので、今のところはそれで納得しているのだろう。    いつものホテルへ行ってみると、部屋を選ぶパネルが全部消えている。  先に入っていったカップルで調度満室になってしまったようだ。   「そうか、今日は土曜日だから混んでるんだな」 「どうする? 別のところを探すか、それとも帰る?」    帰ると言っても車を置いてきてしまったし、酒も飲んでしまったしな、と織田が思案していると従業員がクロークからひょい、と顔を出した。   「お客さん、今空いた部屋がありますから、少し待ってくれたら入れますよ」 「どうする? 修司」 「そうだな、空いたんなら待つか」    ロビーの隅にはソファーが置いてある一角があり、そこで待てるようになっている。  しばらく待っていると、エレベーターから降りてきたカップルの後ろ姿が見えた。    鳥打ち帽のような茶色い帽子をかぶったチンピラ風の男と、真っ赤なワンピースを着た水商売風の女。  あんな奴らの使ったばかりのベッドを使うのか、と一瞬織田は思ったが、岬には言わないでおく。  岬は潔癖性なところがあるから、帰ると言い出しかねない。  なるべく岬がそのカップルを見ないように、身体で邪魔をして注意をそらしていた。  

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