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第32話 行方不明

 黒川は実際のところかなり追いつめられていた。  警察から追われているのは拳銃の密輸の容疑である。  しかしブツはすでにさばいてしまっていて、手元には多額の現金があった。    捕まった仲間はブツも金も持っていなかったし、取引現場をおさえられたわけではないのですぐに釈放される可能性もあるだろう。  それよりも裏切った八代組に見つけ出される方が怖い。  捕まっている仲間が吐く可能性が高いので、女のところに隠れているのももう限界だ。    黒川は狡猾な男で、こういう事態になることを予測して別人名義の偽造パスポートを用意していた。  金を持っていったんメキシコあたりへ高飛びすることを考えている。  しかし警察の目をかいくぐって今国外へ脱出するのは難しい。    黒川は女にしばらく身を隠すようにと多少の現金を渡して帰らせると、記憶を頼りに深夜のライブハウスへ向かった。   「やっぱりこいつだな……」    ニヤリ、と笑みを浮かべてライブハウスの壁に貼ってあるチラシをはがして手に取る。  そこには岬の顔写真と、バンドの出演スケジュールが書かれていた。  まあこいつにはなんの恨みもないが、刑事なんかを恋人にしたことを悔やむんだな……    翌日織田が仕事に行くと、黒川の愛人が行方不明になっていることがわかった。  恐らく八代組に先を越されたのだろう。  どうやら警察の方が後手に回っているらしい。   「このさい八代組にまかせとくか」    月島は半分諦めたように言った。  拳銃の横流しの現場を押さえるのでなければ、黒川を捕まえても警察にとってはあまり意味がない。    黒川が逃亡した時点で、すでに警察は後手だったのだ。  もう今頃高飛びしている可能性もある、と月島は思っていた。  そうでなければそろそろ八代組が見つけ出しているはずだ。   「まあ、念のため行方不明になった女を当たろう。それと、黒川の逃亡を手助けしている仲間が他にいないかもう一度洗え」    織田は月島と一緒に女の行方を追っていた。  月島と行動していると、岬に電話を入れる時間すらなかなか取れない。  ましてや、途中で抜け出して会いに行くことなど不可能だった。    それから3日程立って、仕事が一段落した時に織田はやっと岬に電話をしてみた。  しかし、めずらしく岬の携帯が圏外のようだ。  岬は携帯をサイレントモードにすることはあっても、電源を切ることはない。    まあ、ライブハウスなどは地下にあることも多いから、たまたま圏外の場所にいるのかもしれない、と織田はメールを入れた。  今日は遅くなっても、岬のところへ帰る、という内容のメールだ。  たとえ寝るだけでも、顔を見せようと思っていた。    しかし仕事が終わっても、岬からの返信はなかった。  もう夜中なのにヘンだな、と織田は思う。  岬は遅くなってもメールに必ず返信はする。  それにこんな夜中までライブをやっていることもないだろう。  レコーディングだという話も聞いていない。    とにかくマンションまで行ってみよう。  岬は外泊をすることはないはずだ。  疲れて寝てしまっているのかもしれない。    マンションに行ってみると、岬はいなかった。  織田は嫌な予感に囚われる。  絶対におかしい。  岬が連絡もなく家を空けたことはない。  何度も携帯に電話をしてみるが、相変わらず圏外だ。    どういうことだ……  織田にはさっぱり思い当たる理由がない。    織田は岬の交友関係をほとんど知らない。  バンドメンバーの顔と名前ぐらいは知っているが、連絡先までは知らないので誰にも聞くこともできない。  せめてマネージャーの連絡先ぐらいは聞いておくべきだったと悔やんでもあとの祭りだ。    いつからだ。  岬はいつから帰ってないんだろう。  昨日や一昨日の行動は?    織田は思いついていつも岬が出演しているライブハウスに電話をしてみる。  従業員が電話に出て昨日は別の店に出演しているはずだ、とその店の電話番号を教えてくれた。  その店に電話をしてみると、昨日は確かに岬はその店に出演していた。  その後のことがわからない。    岬はその晩結局帰ってこなかった。  翌日織田はとりあえず出勤したが、事情を月島に話して休ませてもらいたいと申し出た。   「絶対におかしい、と確証があるのか」 「あります。あいつが2日も行方不明になるはずがない」    織田は朝から岬の事務所を調べて連絡を入れてみたが、事務所の方も連絡がとれなくて困っているということだった。   「拉致の可能性があるとしたら、黒川じゃないのか」    月島はあくまで事件としての可能性を考える。  八代組は岬を拉致するメリットなどない。  しかし黒川だとしても、なぜ岬が織田の恋人だということを知っているのだ。   「しかし、岬をさらう理由がわかりません」 「ヤクザなんてのは、我々とは違う思考回路で動いてるんだ。理由なんて逆恨みで十分だろう。お前は黒川に顔を知られている」    その時、織田の携帯の着信音が鳴った。  岬用のメール着信音だ。  あわてて携帯を確認した織田の顔は蒼白になった。    そこには本文はなく、縛られて気を失っている岬の写真だけが添付されていた。  犯人は岬の携帯を使って織田にその写真を送ってきたのだ。  織田は言葉もなくその画面を月島に見せた。   「拉致確定か。新宿署の管轄だろう。お前は休んでる場合じゃない」 「俺は……どうすれば……」    織田は激しく動揺していた。岬に何かあったら、全部自分の責任だ。  

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