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第33話 成田空港
「しっかりしろ。何か手がかりを思い出せ。最近犯人はお前らに接触したんじゃないのか」
最後に岬に会ったのは、道場へ行った日だ……
それからライブを見に行った。
それだけでは岬が恋人だということはばれないはずだ。
だとしたら、その後のフィレンチェかホテルか……
待てよ……
ホテルだ。
あのホテルにはヤクザらしい男が出入りしていた。
それも自分たちが入る直前に出ていったのだ。
見られていても不思議じゃない。
織田は月島と一緒に、岬と泊まったラブホテルへ直行し、フロントの監視カメラの映像をチェックした。
カメラは男の正面からの映像を映し出した。
「黒川だな。一緒にいるのは行方不明になっている女だ」
月島は女の写真を見ながら確認する。
「犯人は恐らく黒川だろう。拉致には必ず目的があるはずだが……」
署に戻って携帯電話会社にGPSで携帯の場所を確認してもらう。
メールを打ってきたということは、たまには電源を入れているということだ。
さっきまで都内にあった携帯が、静岡あたりまで移動している。
「関西方面へ移動しているのか」
黒川は八代組から逃げている。
だとしたら、やはり国際空港をめざしている可能性が高い。
「関西空港か……それとも……」
国際便の飛んでいる空港は、関西空港だけとは限らない。
「俺はとりあえず携帯の追跡に……」
「待て、織田。お前は動くな。まだ情報が足りない」
月島は腕組みをして何か考え込んでいる。
「携帯メールってやつは、発信予約ができるんだろう?」
「それはそうですが」
「だとしたら、さっきのメールだっていつ打ったものかわからない。今も黒川が岬くんと一緒にいるという確証はない」
「しかし現に、岬の居場所は移動していて……」
「それも、岬くんが携帯と一緒に移動しているとは限らない」
「どういうことですか?」
「例えばだが……昨晩のうちにメールの発信予約をして、その携帯をそのへんの長距離トラックにでも放り込んでおけば、トラックが勝手にどこかへ移動してくれる。その間に黒川は反対の方角をめざす……なあ、織田。おかしいと思わないか? 今時携帯にGPS機能がついていることぐらい子供でも知っているだろう?」
確かに、織田が一番変だと思ったのは、岬をさらうメリットだ。
身代金を要求するでもないし、第一逃げるなら岬など連れていてはかえって足手まといになるはずだ。
目的があるとしたら、ひょっとしたら月島の言うように警察の目を撹乱させることかもしれない。
「月島さん、黒川の女が見つかったそうです」
「生きてたのか」
「かなりシャブ中でラリってますが……」
織田は背筋がゾクリと寒くなる。
送られてきた写真で、岬は気絶しているようだった。
生きている人間を長時間おとなしくさせておく方法には限りがある。
黒川なら薬物を使う可能性も高い……
いや、それとも……考えたくはないが、すでに死んでいるかもしれない……
しかし、人質というのは最後まで生かしておかないと価値がないはずだ。
生かしておけば最後に切り札になるから、岬を連れて逃げているのだろう、と織田は希望を持とうとしていた。
「女の話では、黒川は最近偽造パスポートを入手していたようです」
「やはりな……携帯の行方を追いながら、国際空港に人を手配しろ。織田、俺たちは成田だ」
偽造パスポートで出国するのであれば、名前は当然偽名だ。
出国ゲート付近を張り込むのが一番だろう。
「本当に成田だと思いますか……」
「俺のカンを信じろ。必ず見つけてやる」
「岬は、黒川と一緒にいるんでしょうか。もし逃走に他の仲間がいるとしたら……」
「人質は最後まで切り札で置いておくはずだ。殺しはしない。黒川を押さえるのが先だ」
「わかりました……」
「しっかりしろ、織田。お前を選んでくれた恋人だろうが。お前が見つけ出さなくてどうする」
そうだ。
必ず助けるから、もう少し頑張って生きててくれ!
康介……
成田空港にはかなりの人数の警官が配備された。
もちろん私服警官だ。
織田と月島は黒川に顔を知られているので、旅行者を装った変装をしている。
高飛びの可能性のあるアジアやメキシコ方面の便を考えて、南回りゲートへ続く出入り口付近で張り込みを続けていた。
もちろん北回りのゲートも見張っているが、ヨーロッパ方面へ向かう可能性は少ないだろうと月島は読んでいた。
夕方になり、岬の携帯は大阪の宅配便の会社で発見された。
やはり月島の推理は正しかったのだ。
黒川は前日のうちに携帯を宅急便で大阪の架空の住所宛に送っていた。
そして宛先不明で倉庫に戻って来たところを発見されたのだ。
携帯が遅かれ早かれ発見されることは黒川も計算済みだろう。
だとしたら、出国は今日だ。
成田空港の警官の数は増員された。
あの男……
織田はエスカレーターから降りてきた男に目を止めた。
茶色の鳥打ち帽……変装しているが間違いない。
あの帽子はホテルで後ろ姿を見た男と同じものだ。
周囲を素早く見回してみるが、付近の警官に連絡するより自分が行った方が早い、と織田は駆け出した。
織田が突然動いたので、月島もそれに気づいて反対側に回り込む。
織田は男の背後に近寄った。
安っぽいオーデコロンの強いニオイが漂った……
間違いない。織田は月島に目で合図を送ると、男の腕をつかんだ。
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