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第36話 逃避行

 翌日退院していいと言われて、織田は車で岬を迎えに来た。  病気ではないので、栄養をとって体力を回復すればいいということらしい。  薬物はもう身体から抜けているだろう、とのことだ。   「ちょっと遠回りして帰るぞ。身体は大丈夫か?」 「もう大丈夫。どっか寄るところあんの?」 「まあな。着いてのお楽しみ」    織田とドライブをするなんてめずらしいので、岬に反対する理由はない。  どこに行くのだろうと思っていたら、織田は高速に乗ってしまった。  機嫌よく外の景色を眺めていた岬も、料金所をいくつか過たあたりでこれはただのドライブじゃないと気がつく。   「なあ、どこに行くんだよ」 「長野。温泉行こうぜ、せっかく休みなんだし」 「温泉?」    嬉しそうに岬のテンションが上がる。  入院していたのでゆっくり風呂に入りたい。    織田は岬に事件のことを忘れさせてやりたかった。  それにお互い仕事が始まったらもうこんな機会はなかなかない。    織田が予約していた旅館は、個室に露天風呂がついているなかなか上等な部屋だった。  デートなどほとんどしたことのない織田が、雑誌を買ってカップル向けの温泉を探し出したのである。   「すげぇ、岩風呂だ」 「気に入ったか? さっそく入ろうぜ」    両隣の部屋からは見えないように目隠しがついているが、正面には湖畔の景色が広がっている。  露天風呂の中で、織田は岬を膝の上にのせて抱きかかえる。  岬は初めて織田が旅行に連れてきてくれたので超ご機嫌だ。  思えばラブホテル以外の場所でデートしたことなどなかったのである。  岬がこんなに喜ぶのならもっと早く連れてきてやればよかったと、織田は反省することばかりだ。  今回の一件でラブホテルは懲りたので、今度からは少し奮発していいところに泊まるようにしよう、と織田は思っていた。 「修司、ありがと」 「いいんだよ、お前をあんな目に合わせたお詫びだ」  あんな目に合わされたのは犯人が悪いわけで、別に織田のせいではないと岬は思っている。  だけど、それで織田が一緒に暮らすことを決心してくれたし、こんな旅行にまで連れてきてくれたので岬としては結果オーライだ。  岬は織田の首に腕を回して、甘えるようにキスをねだる。  病院にいる時はキスもろくに出来なかったので、思い切り抱き合って熱いキスに溺れる。  風呂じゃなくてものぼせそうなアツアツぶりだ。 「風が気持ちいい……」 「寒くないのか?」  岬はのぼせてきたので、風呂の縁に腰掛けて子供のように湯の中で足をぶらぶらさせている。  織田も岬の隣に並んで腰をかけると、岬が織田のモノに手を伸ばしてきた。 「勃ってる……」 「お前もだろ」  キスをしながらお互いのモノに触れていると、岬は織田の上にまたがって自分のモノを擦りつけてきた。  2本まとめて扱き合っているうちに、息が荒くなっていく。 「イキそう?」 「ああ、もうイクっ」  舌を絡ませ合いながら、ほとんど同時に放出する。  岬が息をはずませながらしがみついてくると、織田は岬を抱えたままお湯の中にダイビングする。 「修司……大好き……愛してる」 「お、今日は大サービスだな」 「こういうことは生きてるうちに言っておかないとね」 「バカ野郎……」  岬の言葉に、思わず織田は岬を強く抱きしめる。  テレビを見てごろごろして、夕方は部屋で懐石料理を食べた。  岬の食欲が旺盛なので、織田は嬉しくなる。  風呂で抱いていた岬の身体は、ただでさえ華奢なのに一段と細くなっていたような気がした。 「なあ……明日帰るの?」 「お前はどうしたい?」 「まだ帰りたくない」  岬は即答する。  織田と旅行できるチャンスなんてめったにないことを、岬もよくわかっている。 「じゃあ、もう一泊するか?」  織田の言葉に岬はみるみる嬉しそうな顔になる。 「それなら、この近くに行きたいところがある」  岬は前に雑誌で見たことのあるペンションを思い出した。 「この雑誌にのってるか?」  織田が出してきた旅行雑誌の中に、岬の言うペンションものっていた。  さっそく電話してみると、部屋は空いていて予約がとれた。 「なんか、逃避行してるみたいだな」  思いがけない行き当たりばったりの旅行を岬は楽しんでいるようである。  岬の笑顔が見られればそれでいい、と織田も満足だ。

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