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第6話 結局のところ

 窓の外に立つ····いや、浮く2人を見て、ヌェーヴェルは嫌気がさした。が、冷えた身体を暖めさせるのもまた良しと、自分に言い聞かせ窓を開けてやる。  すると、さも当然のように真っ直ぐベッドに腰掛けるノーヴァ。ヴァニルはお行儀よく椅子に座り、うきうきと此方(こちら)を観ている。 「今日は(そっち)から来たのか」 「今日も来てあげたんだよ? さぁ、早く脱いで」 「お前、節操も何も無いな」 「まったくです。品位も何も無いですよ、ノーヴァ」 「あぁそう、それは悪かったね。そんなのどうでもいいから、おいで」  俺はノーヴァの言葉に逆らえず、すたすたと歩み寄る。 「良い子だね」  そう言って、ノーヴァは俺の首筋に吸い付いた。 「うっ、くっ······」 「あぁ····。やはり、ノーヴァに血を吸われているヌェーヴェルは唆りますねぇ」 「うるせぇよ変態。それより、こいつが飲み過ぎないように、注意····しろよ。またお預け、くらうぞ····んあっ」 「ぷはぁ····。大丈夫だよ。今日はこれだけにしておいてあげるから。ヴァニル、昨日のお詫びだよ。好きなだけ楽しんでいいからね」 「いいんですか? じゃぁ、お言葉に甘えて──」  俺は完全にモノ扱いだ。ノーヴァはヴァニルと入れ替わり、椅子に座ってじっとこちらを見ている。足を組み背もたれに身を預け、なんとも我儘放題な王子の如くふんぞり返っている。が、その優美な(さま)に見惚れてしまう。  待てを解除されたヴァニルは、タガが外れたように俺の首に喰らいつく。このまま肉身まで食べられてしまうのではないだろうか。  しかし、血を吸われている間、より深い快楽に堕ちるのは、ノーヴァよりもヴァニルの時なのだ。この差は一体何なのだろう。  そんな事をふわふわする頭で考えていると、ヴァニルのデカブツが俺の穴を押し拡げながら入ってくる。いつの間にやら、しっかりと解し終えられていたようだ。 「おい、血を吸うだけじゃなかったのか!?」 「すみません。吸い殺してしまいそうだったので。貴方の血が美味しすぎるのが悪いんですけどね。仕方がないので、こっちで賄わせてもらいますよ」  ヴァニルは全く無遠慮に押し込んでくる。愛を交わす行為ではなく、ただの処理道具にされているようだ。もとより、愛なんてモノは介入していないのだが、どういう訳か今更だが屈辱感が湧き上がる。しかし、この快楽の深みにハマってしまった俺は、抜け出す為の抵抗などできなくなっていた。 「待て、ヴァニル····それ以上は、何か····ダメだ。····もう、やめろ」 「すみません、ヌェーヴェル。····無理です」  容赦なく奥を貫いているヴァニルが、耳の奥に垂れ流すように甘く囁くと、さらに奥へとねじ込んだ。きっと、いけない所に入ってしまったのだろう。いつもよりも深い。  痛いのか気持ち良いのか、もうワケが分からない。目がチカチカするし、内臓が引き摺り出されそうだし、何より俺のお漏らしが止まってくれない。 「良いですね、ヌェーヴェル。もっともっと感じてください。ほら、今からアナタの良いところ、突きますよ」 「待てっ! 待って!! やめ゙っ!! お゙あ゙あ゙ぁっ!!! ····も、やめ····勘弁、してくぇ······」 「おや、もうへばってしまったんですか? 情けないですねぇ。これでどうでしょう」 「んぉ゙····ゔえ゙ぇ゙ぇぇ····も、やめ····むぃらって······」  気を失った俺の事など構うはずもなく、奥をずんずん突き上げる。こいつは真性の鬼畜ドSだ。 「はぁんっ、ふぅ····っん、ヴァ··ニル····」 「気がつきましたか? 意識を失いながらも、ずっと可愛い声が漏れていましたよ」 「知らねぇ··よ····ちょ、待へ、お願いらから」 「焦らして欲しいんですか? こうですか? ゆっくりがいいんですか?」  興奮しきったヴァニルは止まらない。ギラついた深紅の(まなこ)は、瞳孔が開いてるんじゃないか? 何より、俺を喰い殺してしまいそうな目が怖い。意地悪くゆっくりと引き抜き、ゆっくり最奥まで押し込んでくる。少し痛みを感じるが、おそらく痛みさえも快楽へと変えられているのだろう。 「んぐっ、あ゙ぁ゙っ! も、ホントに、無理だ··って····」 「あと少しだけ、いただきますよ」 「はぁ゙っ····ん゙ん゙っ」 「くっ、んっ──」  この絶倫バカは奥で出しながら、飲み干す勢いで血を吸いやがる。 「ヴァニル、その辺でやめておきなよ。ヴェルがまた壊れるよ」 「····んはぁ······ん? おや、いけませんね。夢中になりすぎてしまいました」  まったく、毎度毎度この吸血鬼共は! 快楽に身を委ねすぎだ。俺も人の事は言えんが、限度というものがあるだろう。  しかし、いつにも増して激しいわ乱暴だわ。なんとなくだが様子が違う。どうにもスッキリしないと言うか、何か事情を含んだような2人の態度が気持ち悪い。何かあるのなら言ってほしいのだが。  いや、抱き潰される俺の身にもなれよ。俺には聞く権利があるはずだ。 「お前ら····特にヴァニル。何かあったのか?」 「····と言いますと?」 「お前ら今日、何か変だぞ」 「そ、そうですか?」 「はぁ····。ノウェルだよ。ノウェルがねぇ──」  ノーヴァが洗いざらい吐いてくれた。ノウェルの拗らせっぷりには困ったものだ。それに触発されるこいつら、主にヴァニルには手を焼かされる。 「はぁ····。ノウェルか····。アイツ、やっぱり本気だったんだな。んー····、どうしたものかな」 「一度相手をしてやればいいんじゃない?」 「「······へ?」」 「だから、相手をしてあげたら黙るんじゃない?」 「何を言っているのですか、ノーヴァ」 「まったくだ! なぜ俺がノウェルの相手を······お前らはそれで良いのかよ!?」 「ボク達は恋人でもなければ、主従関係にあるわけでもない。ただの利害の一致でしょ。逆に、なぜボク達に拒む理由があるんだよ」  ノーヴァの妙に割り切った考えに、無性に腹が立つのは何故だろうか。なんだか捨てられたような、振られたような気がしてならない。つーか、利害一致してねぇよ。俺の利がリスキーすぎるだろう。 「私は困りますよ」 「どうしてヴァニルが困るの?」 「それは····。他で体力を削られたら、私の相手ができなくなるじゃないですか」  玩具を取り上げられそうな子供の如く、口を尖らせてごねるヴァニル。俺の脳内で、何かがプツンと音を立てて切れた気がした。 「なに口を尖らせているんだ。可愛くも何ともないわ! そうか、よーくわかった。お前ら、今すぐ俺の部屋から出てけぇぇぇ!!」  俺は怒りに任せ叫んだ。そして、2人の背を押し部屋から追い出した。 *** ──バァァンッ  2匹の吸血鬼を叩き出し、ヌェーヴェルは力一杯に扉を閉めた。  しょぼくれた顔のヴァニルと、終始無表情のノーヴァ。2人が一体何を考えているのか、理解できないヌェーヴェルは苛立ちを抑えられなかった。 「ノーヴァ、何故あんな事を?」 「だって、ボク隠し事なんてできないし、事実に反する事は言えないもん。それにボクの感情なんて関係ないでしょ。それは非合理だよ」 「昔から貴方は、クソがつくほど真面目ですよね」 「何だよ。お前みたいに、器用になんてできないんだよ。悪い?」 「いいえ、貴方の良い所です。ですが、本当に良いのですか? ノウェルとヌェーヴェルが交えても」 「············嫌だよ」 「そうですか。わかりました。では、どうにかしましょう」 「どうにかって、どうするの」 「任せてください。ノーヴァ、貴方に悲しい思いはさせません」  そう言ってヴァニルは屋敷を飛び出して行った。

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