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第7話 狂行

──カタンッ、カタカタッ 、カチャッ  今夜は風が強い。ノウェルは自室に篭もり、学院の課題を進めていた。  すると、突然窓が開き蝋燭の火が消えた。それと同時に、首筋にチクッとした痛みを感じた。その途端、ノウェルはふわっと意識を飛ばしてしまった。  次にノウェルが目を覚ました時、両の手脚が麻紐でベッドに繋がれていた。もがけばもがく程きつく絞まり、擦れて痛みが伴う。 「なんだ、これは····」  警戒しながら辺りを見回すノウェル。すると、脚元に人影が見えた。 「だ、誰だ! 何故こんな事を!?」 「ふぅ····。静かにしてください。あまり騒がれると都合が悪いので。言う事を聞いてもらえないなら、力づくで黙らせますよ」  そこに居たのは、黒いローブを身に纏ったヴァニルだった。これまでに見せたことのない、冷徹な目をしている。  普段は笑顔の仮面を被っているかのような男の、おそらく本性であろう瞳に怯えるノウェル。 「なっ、貴様····。どうやって入った。何故こんな事をする」 「ふふ、声が震えていますよ。····この狂行(きょうこう)の理由は、貴方がヌェーヴェルを(たぶら)かそうとするからですよ」 「誑かしているのはお前らだろうが! 俺の可愛いヌェーヴェルを!」 「貴方の? いいえ、違います。ノーヴァと私のモノです。勘違いしないでくださいね」  声のトーンが下がり、ヴァニルは苛立ちを顕にする。怯えるノウェルが、睨みつけるようにヴァニルを見上げる。凍てつくような無機質な瞳を、窓から差し込む月明かりが輝かせていた。  背の高いヴァニルに見下されるのは、尋常ではない恐怖を感じる。ましてや静かに怒る彼は、何人も塵と化してしまいそうな危うさを孕んでいる。  しかし、ノウェルも容易に引く男ではない。ことヌェーヴェルに関しては尚更である。 「なんだ、俺を殺しに来たのか」 「ははっ、違いますよ。それならとっくに()っています」 「じゃあ、一体何なんだ」 「ん~、これからアナタを犯してみようかと思いまして」 「······ん?」 「何か?」 「いや、貴様がくだらん事を()かすから、頭がイカれているのかと思ってな」 「ははは、私はイカれてもいませんし、これは冗談じゃないですよ」 「どういう経緯でこうなっているんだ? わけがわからんぞ」 「そうですねぇ。簡潔に言いますと、アナタがヌェーヴェルを忘れられるように、協力して差し上げようと思ったまでですよ。私も楽しめますし」  ウキウキとしながらヴァニルは、作られたようなにこやかな顔でノウェルの服を脱がし始めた。 「貴方は本当にヌェーヴェルにそっくりですね。顔も体つきも、ここも」  ヴァニルはノウェルのイチモツを強く握った。 「うっ、痛いだろ! やめろ! 何と淫猥な化け物だ!」 「本当はヌェーヴェルにもこんな風に酷くしたいのですが、ノーヴァに叱られますからね。ああ見えて、ノーヴァはヌェーヴェルを大切に扱っているのですよ。私はついついヤり過ぎてしまって。ですから今、実はとても興奮しているんですよ」  恍惚な表情(かお)で彼が瞳に写しているものは、眼前のノウェルではなくヌェーヴェルだった。 「私は別にね、貴方を傷つけたいわけじゃないんですよ。ですから、ちゃんと解してあげますし、()くしてあげますからね」  ヴァニルはノウェルの中を掻き乱し、自分のモノを収めんがため拡げた。ノウェルの苦痛に歪む顔は、ヴァニルをさらに高揚させた。 「も、やめてくれ····これ以上は、んぅ····おかしく、なってしまう」 「そうですか····。早く欲しいですか。指では物足りないと? いいでしょう。では、いただきます」  心積りなどさせる間もなく、ずっぽりと半分ほど押し込んだ。   「ん゙あ゙あ゙あぁぁぁっ!! 待てっ! 大きいっ····それ以上は、入らな·····んぐぅぅ····」  ノウェルの静止など無視して、ヴァニルは容赦なく根元までねじり込んだ。   「本当に煩い口ですね」  そう言って、ヴァニルは煩わしそうにノウェルの口を手で塞いだ。 「ヌェーヴェルはそんな獣のように喘いだりしませんよ? いつも健気に声を殺して、周囲にバレないようにしているんですから。まぁ、全然我慢できてないんですけどね。そこがまた愛らしいんです」 「ん゙ん゙っ! ····ぷはぁっ····貴様、どこまで····んっ、外道なのだ」 「酷い言われようですねぇ。そんなに憎いですか? ヌェーヴェルを支配している私達が」  ノウェルはヴァニルを睨みつけた。その目には溢れんばかりの涙を浮かべ、何かを言いたげに訴えている様子た。  そんなノウェルになど構わず、ヴァニルは満足のゆくまで容赦なく犯し続けた。それは永遠と思われる程長く続き、夜が開ける前にノウェルの身体だけは快楽に堕ちていた。 「貴様にどれほど犯されても、私の心は····ヌェーヴェルの····ものだ······」 「やれやれ、まだ足りませんでしたか? もしくは、貴方の心はそれほどまでにヌェーヴェルを······」  ヴァニルは身なりを整えながら呟いた。  失神したノウェルを綺麗に拭き、ベッドを整え拘束を解いたヴァニル。タイを締め直すとローブを纏い、再び窓から飛び立った。  屋敷に戻ったヴァニルは、まっすぐヌェーヴェルの部屋へ向かった。そして、寝ぼけ眼のヌェーヴェルを、自らの穢れを拭うように一心不乱に犯した。ヴァニルはあまりにも夢中で、制止を懇願する声も耳に届かなかった。 「ヴァニル! ヴァニル!! もっ、やめっ、て、くれ····死んじゃ····う····」 「ダメです。まだまだこれからですよ。ふふっ、こんな事で死にゃしませんよ」 「イキ····っぱなしで····息、できなっ······」 「仕方ありませんね。ほら、休憩させてあげますから息してくださいね」  そう言ってヴァニルは、ヌェーヴェルの血を啜った。 「んっ····」 「甘い声を漏らしてないで、呼吸を整えてくださいよ」 「なんっなんだよ、お前。どうした、何かあったのか?」 「貴方はどうして、そう他人の事ばかり気にするのですか? 今、貴方が何をされているかわかってるんですか?」 「え、なんで俺怒られてんの?」 「はい、じゃぁ再開しますね」  ヴァニルは再びリズム良く、かなり早いテンポで腰を打ちつけ始めた。  ヌェーヴェルが失神してもなお、腰を止めることができず犯し続けた。ヌェーヴェルは意識を飛ばしながらも嬌声が零れ、枯れることなく潮を吹き続けた。  朝食を求めて部屋を訪れたノーヴァがそれを発見する。ノーヴァの来訪にも気づかず腰を振り続けるヴァニルは、重い一撃を顔面に喰らい漸く正気を取り戻した。ヌェーヴェルはヴァニルの回復魔法で何とか復活したが、非常に危ういところだった。  夕方になりヌェーヴェルが目を覚ますまで、ヴァニルは傍を離れなかった。 *** 「ヌェーヴェル、大丈夫ですか? その、すみません。私は、アナタを殺してしまうところでした」 「······まったくだ。このバカタレが。反省してるようだし、俺は生きてるから今回は許す。だが、次は無いぞ」 「ヌェーヴェル、ありがとうございます。本当にすみませんでした」 「ちょっと。お前、本当にわかってんの? 偶々(たまたま)ボクが来なかったら、間違いなく死んでたんだよ? それなのに、そんなにあっさり許すの? バッカじゃない!?」 「はは····。いいんだよ、今は」  俺自身、怒ってないのが不思議だ。それだけ気持ち良かったからなのか? 違う。朦朧とする意識の中で見た、ヴァニルの冷ややかな目や容赦ない攻めに興奮したのだ。あのまま死んでもいいと思ってしまうほど、俺は快楽に溺れていた。  そんな自分を知りながら、ヴァニルだけを責める事などできない。 「なぁ····。お前らさぁ、もしも俺にヴァールスの能力が無かったら、俺に興味持ったか?」  何を、らしくない質問をしているのだろうか。 「そんなこと知らないよ。くだらない。体質は偶々都合が良かっただけ。今はお前に興味があるんだからいいでしょ」 「ヌェーヴェル、貴方が思っているほど私達は無情ではないのですよ。もしもの話は不毛です。私達は今、貴方に惹かれてここに居るのですから」  何を不安に思ったのかも、何故こんな事を聞いたのかもわからない。それでもこいつらの想いを感じるようになってからは、それを失くしてしまうのが嫌だってことはわかる。この気持ちに名前はつけられないのだろうか。なんだかずっとモヤモヤしているんだ。

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