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第8話 垣間見える本音
ところで、ヴァニルはどうして突然あんな狂行に出たのだろう。
「おい、ヴァニル。俺はどうしてあんなに、その、犯されたんだ? 何かあったのか?」
「いえ、それは、そのーぅ······」
「何かやらかしてきたんじゃないの? ヴァニル、言って」
「実は──」
ヴァニルはノウェルへの蛮行を洗いざらい白状した。
「で、俺と重ねて乱暴にしたが、俺ではないから上書きするために俺を犯しに来たと?」
「まぁ、そんなところです」
「おい、ノーヴァ。こいつをどうしてくれようか」
「そうだねぇ····。これはキツめのお仕置きが必要だよね」
「はい、甘んじてお受けします。さぁノーヴァ、私に罰を下してください」
申し訳なさそうな表情とは裏腹に、頬を赤らめ拳を握り締めて言いやがる。
「こらこらこら。こいつ、ノーヴァからのお仕置きだと喜んじまうぞ」
「じゃぁ、ヴェルが決めなよ」
「俺が? ん~、そうだなぁ······。そうだ、生殺しの刑なんてどうだ?」
「いいね。それ採用」
生殺しの刑、それは文字通り。ノーヴァの食事を見るだけで、許可がおりるまで血の一滴も飲めず、俺に指一本触れる事さえ許されない。念の為、暴れないよう椅子に縛り付けた。
だが、これが問題だった。お預けを食らう事は勿論、ノーヴァに縛られた事に興奮し始めたのだ。
「んっ····待て。おい、ノーヴァ。あいつ色々とヤバいぞ」
「そうだね。いっそのこと、ヤられきってから回復するほうが、結果的に早いかもしれないね」
「そんなの、俺が生贄みたいじゃないか」
「みたいじゃないよ。まさしく生贄だね」
ノーヴァは人を生贄呼ばわりした挙句、あっさりとヴァニルの拘束を解きやがった。
目はギラつき、身体からは湯気が出ているように見える。間違いなく俺の見間違いなのだが、迫り来るヴァニルはそれ程恐ろしく感じられた。
「待てよ! 無理だって!! もういっそ、血を飲んで落ち着いてくれ。頼むから····──」
「すみません。無理です。食欲と性欲とは、似て非なるものですからね。もう我慢できません」
「ちょっ、やめっ····んぅ」
首筋に噛みつくヴァニル。いつもより噛む力が強い。このまま噛み千切られるのではないかと、死を予感して血の気が引く。それと同時に、それ程までに俺を求めているのかと思うと、腹の底の辺りが熱くなった。
「ヴァニ··ル······強っ、痛い······噛むの、深い······」
「んくっ、んっ、くはぁっ······すみません。上手く加減ができない。貴方の血が美味すぎて」
ヴァニルの言葉遣いが乱れている。余程昂っているのだろう。本気で怖いと思ったのは初めてかもしれない。尻を鷲掴みにされ、俺は痛みで仰け反った。
「いだっ、爪、ケツにくい込んでる! お前、それでケツんナカ弄るつもりか!?」
「まさか。貴方に怪我をさせたい訳じゃないんですよ。貴方のやわやわのお尻なんて舌で充分」
「やっ、舐めんな! 汚ねぇだろ!? やめろって」
「綺麗にしてるでしょ? 私達に犯されるのを楽しみにして」
なんつぅ厭らしい顔で笑うんだ。ノーヴァが胸を押さえて悶えている。鼻血でも噴くんじゃないだろうか。
「違っ····お前がやると、ふぁっ····変態っぽくてキモイから、仕方なく自分でしてやってるんだ。楽しみになんかしてない!」
「ヌェーヴェル。貴方は本当に素直じゃないですね。よし、それじゃぁ素直になれるまで、私がお手伝いしましょう」
「素直にって、なんて言ったら満足なんだ!? 待て。なんでお前、そんなにデカくなってるんだ? 待てって! 流石にそれは入らない」
「大丈夫。ヌェーヴェルなら受け入れてくれるでしょう? ほら、力を抜いて」
俺は、上手く力を抜けなかった。その所為で、ヴァニルの激しい口付けを食らう羽目になった。無駄に長い舌で喉まで舐めやがる。
おかげで息ができず、上手く力が抜けたようだ。気がつくとヴァニルのデカブツがずっぽりと収まっていた。
「んぁ····動くな。ケツが裂ける。奥、それ以上は、ダメだって。ンッ、もぅ、入らないぃ····」
「甘い声····艶めかしいですねぇ。可愛いアナルが傷つかないよう、あまり大きく動かないようにしましょうね」
ヴァニルはそう言って、奥の奥までねじ込むと、グリングリン抉るように腰を押しつけた。
「やめ゙っ····らめらって、お゙え゙ぇ゙ぇ····そこ、入っちゃダメなとこぉ······」
「あーあー、またお漏らしして····。そんなに良いんですか? こ~こっ」
「ひぎぃあ゙ぁ゙ぁ゙ぁっ!!! 腹ぁっ、しゃげる゙っ!! 死゙ぬ゙ぅ゙ぅ゙ぅ!! ゔえ゙ぇ゙ぇぇ······」
「あぁ~、可愛い。吐いて漏らして、貴方の全てで私を感じてるんですね。こんなに酷くされても、貴方は快感を手放せない。どこまでも欲に忠実だ」
「ハァー····ハァー······ったく、よく喋るな····。さっさとイケよ。イッてそろそろ解放して、んぐぅぅあ゙ぁ゙ぁっ!!!?」
ヴァニルは再び、俺の最奥をさらに進み、腹を突き破る勢いで突き続けた。
「ははっ。まだまだこれからですよ。貴方に死なれては困るのですが、少しだけ本気を出させてもらいますねっ」
「い゙あ゙ぁ゙ぁぁ····っ!! ヴァ··ニル、もぅ、出ない····にゃにも、出にゃい····息、れきにゃ····死にゅ····」
息ができないと訴えているのに、バカはキスをかましてくる。余計に息ができないじゃないか。
「んぅ····はぁ····」
「息、しててくださいね。まだおさまりそうにないんで、頼みますよ」
「どんらけ出したら、気が済むんらよ····バカめ」
「そのバカに愛されたのが運のつきだと思ってください、ヌェーヴェル」
「何が愛だ。そんな薄気味悪いもん····俺は、知らない······」
その後、どれだけ頼んでも、どれだけ俺がイキ狂っても、ヴァニルが満足するまで情事が終わることはなかった。吸血鬼としての本性を垣間見たようで、俺の中で恐怖が渦巻いたのをぼんやりと憶えている。しかし、それは恐怖だけではなかった。胸の高鳴りと高揚、認めたくはないが、それらも確かにあった。
結局、俺の願いなど1つも届くことはなく、朝まで犯された。虫の息だった俺は、ヴァニルの回復魔法で蘇らせてもらったのだった。まったく、便利なものだ。
「金輪際こんな事するなよ。お前、あの時の自分の姿憶えてるのか? 爪も牙も伸びてたし、瞳まで紅黒に変化してたんだぞ。あれじゃあ、ただの化け物じゃないか」
「····面目次第もありません。貴方とノーヴァの事になると、どうにも制御 ができなくなってしまって。それもこれも······」
「それもこれも?」
「いえ、何でもありません。とにかくヌェーヴェルは回復に専念してください。何かあったら遠慮なく言いつけてください。では」
ヴァニルは捲し立てるように言い置き、そそくさと部屋を出て行った。
「何だあれ。ノーヴァは何か知らないのか?」
「さぁ、ボクは知らないよ。どうでもいいけど、早く元気になってね。気になって食事を楽しめないじゃないか」
「俺はいつからお前の食事になったんだよ。素直に心配だって言えねぇのかよ」
「はいはい。心配してますよ~。ボクも部屋に戻るね。····ヴェル、お前はボク達の食事だよ。上等のね」
「何だよ、血が生成できるからってそんなに重宝されてんの?」
「······バーカ」
「なっ、何なんだよ!」
ノーヴァは呆れ顔で部屋を出た。俺は何か変な事を言ったのだろうか。まったく、吸血鬼というヤツは何を考えているのかさっぱり解 らん。
ところで、ノウェルは大丈夫なのだろうか。今会うのは少し気が引けるが、放置しておく訳にもいかないだろう。仕方がないので、体調が戻ったら会いに行ってみよう。
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