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第16話 武器商のタユエル

 ブレイズの薬草苑を後にし、問題のタユエルの武器屋へ赴く。これは、まかり間違えば自殺行為だ。  奴は時々人間を襲う。ヴァニルの危険版という感じの奴だ。タユエルは、血を吸った人間を生かしておくようなことはしない。  流石にヴァールスの人間には手出しをしないようだが、俺は昔から確実に狙われている。これまで、何度誘われたことか。  キィィと重い木の扉を開ける。 「いらっしゃ····ヴェルか。なんだ、犯されに来たのか」 「違うわ阿呆。様子を見に来ただけだ。クソ親父から賜った仕事なんでな。じゃなかったらお前のトコになんか来ねぇよ」 「ははっ、口の減らねぇガキだな。商品のほうは要らねぇのか? 新しいのが入ったぞ」  タユエルはそう言って、俺に銃を一丁見せた。俺は、それを手に取って見定める。 「重いな。試し撃ちはできるのか?」 「あぁ、地下でなら」 「······やめておく。お前の目にかなったのなら間違いはないだろう。それに、本当に襲われちゃかなわん」 「つれねぇな。けどお前、その匂い····。相手ができたのか」  あぁ、厄介だ。阿呆2人の所為で、吸血鬼からこの手の質問が増えた。 「相手····まぁ」 「嫡男が吸血鬼の相手してんのかよ。はぁ~····親父さんも気苦労が絶えねぇだろうなぁ」 「クソ親父は知らねぇよ。片方が洗脳を使えるらしくて、家のヤツ皆騙してる」 「片方ってお前、2人居んのか」  しまった。口が滑った。これは面倒になりそうだ。 「いや、違····お前に関係ないだろ」 「あるね。俺ぁずっとお前にフラれ続けてんだぞ」 「求愛された覚えはないがな」 「何言ってんだよ。お前の初めて奪ってやっただろうが」 「いかがわしい言い方をするな。たかがファーストキスだろ。それも事故だったじゃないか」 「事故でもなんでも、そのまま熱く舌を絡めただろう? あん時のお前の顔、最高にエロかったなぁ」 「帰る」 「おいおい、近況聞きに来たんだろ? 何も聞かずに帰んのかよ」 「お前が阿呆のままだという事はよくわかった。充分だ」  帰ろうと席を立った俺の肩を抱き、タユエルは耳元で囁く。 「悪かったって。なぁ、けどマジでさ、2人相手すんのも3人相手すんのも変わんねぇだろ? 血は吸わねぇから抱かせろよ」 「断る。俺はそんなに安くねぇんだよ」  腹が立った俺は、胸ぐらを掴んで言ってやった。 「へへっ、唆るねぇ····。いつか絶対に喰ってやるよ。それまで壊されんじゃねぇぞ」 「ふざけるな。お前みたいな軽い奴に喰われてたまるか。はっ、あんなバカ2人くらい飼い慣らしてやるよ」  と、強気な事を言ったが、実際飼い慣らされているのは俺のほうだ。  とりあえず、本気で襲われる前に帰ろう。銃を一丁、クソ親父に渡すよう言われて預かった。製薬会社だって、色々手を出す時代なのだ。  屋敷に戻ると、ノウェルが部屋で待っていた。どうも、顔色が優れないようだ。 「おかえり、ヌェーヴェル」 「ただいま。どうしたんだ。どこか調子でも悪いのか?」 「少しだけね。けど、大丈夫だよ。君を抱くくらいの元気はあるから」 「お前、その為に待ってたのか」 「はは····、そういうわけじゃないけどね。実は、相談があって····」  ノウェルが言うには、体調が優れないのはヴァニルの所為なのだとか。  ヴァニルに性的快感を覚えさせられてから、俺の血を欲する気持ちが爆発的に増しているらしい。聞けば、ローズが吸血を控えていた頃の症状と似ている。 「で、俺に血を吸わせろと?」 「いや、人工血液を少し分けてもらえないだろうか。僕が自覚している事は、ヌェーヴェルとあの2人以外知らないだろう。だから、君にしか頼めなくてね。それに、君に負担をかけるのは嫌なんだ」  こいつら親子は揃いも揃って····。 「バカかお前は。ほら、飲め」  俺は襟を開き、首筋を差し出した。 「なっ、何をしているんだい!? やっ、ダメだよ。君の血は吸わない。際限なく吸ってしまいそうだから」 「限界だと思ったら、殴ってでも止めてやるよ。お前がお母上のように摂食障害にでもなってみろ。隠し通せないだろう」 「ヌェーヴェル····。本当にいいのかい?」 「俺が吸えと言ったんだぞ。俺だって、お前を大切に思っているんだ。愛だの恋だのではないがな!」  頬が熱くなった。我ながらアホらしいと思う。  ノウェルはおずおずと俺の肩を押さえ、首筋にそっと牙をあてがう。そして、グッと食い込ませると、ノウェルは初めて人間の血を啜った。  泣きながら、美味そうに吸い続ける。こいつの心情は計り知れんが、少し憐れに思ってしまったのは失礼だっただろうか。 「んっ、ノウェル、もういいだろう····。そろそろ、やめ····んぁっ」 「んくっ、んっ、んっ、ぷはぁ····。ごめんよ、ヌェーヴェル。もう少しだけ。喉の乾きが癒えないんだ」 「待て、も、無理だって····はぁ··ん····」  ダメだ。目が回ってきた。殴って止めないと。だが、力が入らない。 「ノウェル、その辺でやめなさい。貴方、加減が分からないのにゴクゴク飲んでんじゃありませんよ」  ヴァニルがノウェルを抱き上げ、吸血を辞めさせてくれた。間一髪といった所だろうか。もう瞼を開いているのがやっとだ。 「ノウェル、その喉の乾きが癒えることなんてありませんよ。潤うのは一瞬だけです。だから、私達は愛する者を陵辱するのですよ。最大の愛をもって」 「あぁ、ヴァニル····。止めてくれてありがとう。気をつけるよ」  ノウェルは、ヴァニルとノーヴァに対して随分丸くなった。心を許したというわけではなく、単に力の差を知ったからなのだろう。生粋の吸血鬼に敵うわけがないと悟ったというところか。  それともうひとつ。ヴァニルに与えられる快楽に、心が引き摺られているようだ。身体から惹かれる心と言うのも、あながち嘘ではないらしい。あのノウェルが、ヴァニルに従順になる瞬間さえあるのだから。 「しかし、そのままでは辛いでしょう。少しだけ、和らげてあげますね」  そう言って、ヴァニルはノウェルを抱いた。  目の前で繰り広げられる情事が、こんなにも見るに堪えないとは思わなかった。あれを自分がされているのかと思うと、直視する事などできない。 「ヴェル、身体が疼くんでしょ。ボクが挿れてあげようか?」    いつの間に来たのか、ノーヴァが耳元で囁いた。 「ひあぁっ!? ノ、ノーヴァ。俺は無理だ。貧血!」 「ノウェルの仕業? 全く。ボクもノウェルに突っ込んでみようかな」 「おや、挿れますか?」  ヴァニルが、ノウェルのケツの穴を指で拡げて見せる。ノーヴァはそこにちんこをあてがうと、涎を垂らして滑りを良くした。 「ノウェル、意識をやるなよ? 啼いていてくれないと、興が冷めるからね。良い子だからできるよね?」 「でっ、できない。2本なんて、入らない゙ぎあぁっ!!? かはっ····おし、お尻が、裂ける····ダメだ、壊れる! 腹がっ、ぐちゃぐちゃになってしまう!!」  ノウェルの怯えた顔が、2人をさらに昂らせている。俺よりも、ノウェルを嬲っているほうが楽しそうじゃないか。 「大丈夫だよ。お前も吸血鬼の端くれだろう? どうなってもすぐに治るよ」 「いだいっ、おじり゙がぁっ····あ゙づいっ、腹が破れてしまう!! 2本も奥に入らない!! 嫌だっ! 抜いてくれ! 助けて、ヌェーヴェル!! 死んでしまゔぅあ゙ぁ゙ぁ゙ぁっ」 「あーっはは! どう? 2本で結腸を貫かれるのは。ほら、たっぷり注いであげるからね。これで、痛みも快楽に変わるよ」 「初めての吸血で、体が驚いたのでしょう。ここでしっかり発散しておかないと、吸血で満たさなければ満足できない体になりますよ。そうなれば、貴方はいずれヌェーヴェルを手にかけてしまう」 「そんなの嫌だっ! ヌェーヴェルを、大切にしたいんだ。ん゙お゙ぁ゙ぁっ」 「でしたら、こっちで満足出できるよう身体に覚えさせましょうね」  それから、ノウェルは気を失うまでやりたい放題に犯された。俺も、吸血鬼になってしまったら、あれくらいされるのだろうか。恐怖を越えて期待が高まったなんて、絶対に知られないようにしなければ。さもなくば、人間のうちから無茶苦茶にされかねない。  目を覚ましたノウェルは、吸血の直後よりは落ち着いたようで、吸いすぎたことを詫びながらキスをして帰った。本当に回復が早いんだな。ノウェルの吸血鬼らしい一面を見る度、俺は少し複雑な気持ちになってしまう。

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