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第17話 今暫くこのままで

「ノウェル、ヌェーヴェルの血は美味しいですか?」  ヴァニルは、ノウェルに打ち付ける腰を強めながら聞いた。 「んっ··美味い······」 「喉、大丈夫ですか?」 「大丈夫だ。ヌェーヴェルの血を、飲めるのなら····こんな痛みなど、へでもない」 「ヴェルは結局、ボクらの事好きなんだよね」  こいつらの喉が焼けている事がそれを証明しているのだが、絶対に認めてやらない。 「すっ、好きじゃ····ない」 「強情だなぁ。いいよ。また言わせてあげるから」  ノーヴァはヌェーヴェルの奥を突き上げると、折檻するように言う。 「ほら、正直に言わないと、吐いても奥やめてあげないよ。なんならボク、このまま大人になってみようか?」 「んぶっ····馬鹿ヤロォ······んえ゙ぇ゙ぇぇっ····わがっだ、言うから゙、奥やめっ··ゔぇ゙ぇ゙ぇぇ」 「ヌェーヴェル、あぁ可愛い····んぅっ····ヴァニル、もう、奥を突くな! 僕まで、ぇゔっ····吐いてしまう。せっかくヌェーヴェルの血をもらったのに····」 「勿体ないのはわかりますが、吐けばいいでしょう。締まって気持ち良いですから」 「馬鹿な事を言うな! ヌェーヴェルが、汚れてしまうでは、ないか····はぁん」 「おやおや、艶かしい声をあげて、そんなに良いですか? 奥、もっと深く抉ってあげますね」 「やめ゙っ、お゙え゙ぇ゙ぇぇぇ····もっ、奥やらぁ····」  俺とノウェルは容赦なく犯され、バカ2人が満足したら事を終える。ここ最近はずっとそんな感じだ。  ヴァニルはノウェルのナカから出ると、そそくさと俺のナカに収まる。ノーヴァはノウェルのナカに。俺とヴァニルとは違い、一切愛のないノウェルとノーヴァの行為は、ノーヴァの欲の捌け口でしかなかった。  ヴァニルは恍惚な表情(かお)で俺を見下ろし、指を絡め合って両手を押さえつけ、美しい瞳で真っ直ぐに見つめてくる。無駄に妖艶なヴァニルを見上げる俺は、(とろ)けそうな顔を必死に抑えている。 「ヌェーヴェルもいい加減、素直になってください。身体(こっち)みたいに」  俺を弄ぶかのように、奥を抉ったり入口を執拗にこねくり回したり、好き放題に犯すヴァニル。いちいち初心(うぶ)な反応を見せる俺が、可愛くて堪らないとか言っていた。近頃は、俺が泣いて許しを請うまで嬲り尽くす。  想いを隠さなくなって暫く、俺が壊れない程度に容赦しなくなったヴァニルは、さながら野生の獣と化していた。 「お前、いくらなんでもんぁっ、ヤり過ぎっ、あんっ····」 「随分可愛く鳴くようになりましたね。あぁ、愛していますよ、ヌェーヴェル」 「俺は、愛してなんか····ない······だから、もう····んっ、今日は、やめ····ダメだって、もう許して······」 「そうですか。貴方が素直に想いを曝け出せるまで、もう少しかかりそうですね」  俺の制止など聞く耳を持たず、好きなように犯し満足するまで使う。そんなノーヴァとヴァニルの欲に、俺の欲を紛れさせて想いを隠す。俺達はそういう仲で満足していた。  ノーヴァも、この乱れた関係が存外気に入っているようだ。ノウェル犯すのも、実は楽しいらしい。ノーヴァの残虐性を目の当たりにする度、俺は少し玉が縮こまってしまうが。  さらに、今のノーヴァには没頭するものがあった。約束通りローズに紹介し、共に薔薇を育てるようになったのだ。 「ノーヴァ、この薔薇の香りはどうかしら? 先週の物より上品な気がするのだけれど」 「確かに、甘ったるいのにすっきりする感じだね」 「そうでしょ? うふふ、貴方とこうして楽しめるなんて、すごく素敵だわ」 「ボクも、すごく楽しい。何も考えず、ローズと薔薇を愛でている時間は心が安らぐよ」 「ノーヴァ、こちらへ来て」  ノーヴァの生い立ちを不憫に思うローズは、我が子を抱くようにそっとノーヴァを抱きしめた。ノーヴァもまた、そんなローズを母のように慕った。  ノーヴァにとって、ローズの話は興味深いものばかりだった。ヴァニルから学んだものと言えば戦術や格闘術などが多く、人間の真似事をして生きる為のものは少なかった。  それに反しローズは、礼節や人間と上手く付き合う為の心の在り方を多く教えた。  数ヶ月で、ノーヴァは見違えるように心身共に成長していた。あの無作法な女王様のような面影はなく、立ち振る舞いから言葉遣いに至るまでが完璧な紳士だった。  これには、俺もヴァニルも驚いた。  さらに驚いたのはノウェルの事だった。  ノウェルは本家主催のパーティーで、吸血鬼の少年と出会った。名はイェールといい、ノウェルに一目惚れして猛アタックを続けている。イェールは2つ年下だが、単純なノウェルなど手玉に取る様に上手く取り入った。  吸血鬼とは言っても、その血はとうに薄まっており大した力などない。だが、恋を覚えたイェールもまた、少しずつその血の本性を表している。  ノウェルが想いを寄せる俺を、イェールはよく思っておらず、乱れた関係の事を知られると都合が悪かった。  しかし、ノウェルはイェールに全てを話した。それは、俺の愛を独占できないことへの、眇々(びょうびょう)たる反抗なのかもしれない。が、本当に迷惑な話だ。  イェールが俺に、乱れた関係からノウェルを解放するよう直談判をしに来た際、ノーヴァに叩きのめされた。イェールはそこで、歴然とした力の差を知ったのだった。  そして面倒な事に、俺たちに混じってノウェルを抱きたいと言い出した。ノウェルと交われるなら、俺たちの事には目を瞑るとか上からものを言いやがって。どこまでややこしい関係になるんだ。  イェールは、俺に手出ししないことを条件に、仲間入りする許可を得た。と言っても、面白がったノーヴァが勝手に決めた事で、ヴァニルは当然不服そうだった。  今日も今日とて、夜も更けた月明かりの下。散歩と称しやってきた廃城で、俺はヴァニルに迫られている。  時々、2人で楽しみたいと連れ出されるのだ。毎度、後でノーヴァにブチ切れられるのだが。 「なぁ、ここちょっと綺麗にしないか?」 「はぁ? そうやってまた茶化す気で······まぁ、そうですねぇ。些か気にはなっていたのですが、貴方とここに来るとそれどころではなくなってしまって」  何がニコッだ。いつもそうやって誤魔化す。俺と出会った思い出の場所だから昂るとか吐かしてやがったが、このカビ臭さも石の冷たさと毛布の薄さも、いい加減うんざりだ。 「此処を綺麗にするまでシない」 「····なんですって?」  突如ヴァニルの雰囲気が恐ろしくなる。しかし、ここで負けてはいつもと同じだ。 「絶対にシない! 汚いし硬いし冷たいし、嫌だ」 「はぁ······子供ですか、貴方は。雰囲気(ムード)もへったくれも無いですね」 「なんとでも言え。だいたい、この汚さでムードもへったくれもあるか! あのなぁ、俺だってちょっとは大事にされたりとか、その、良い雰囲気でシたかったりとか····恋人じゃなくても、甘い雰囲気を味わってみたりとかだなぁ····」  一体俺は、ごにょごにょと何をほざいているんだ。こんな事を言いたかったんじゃないのだが····。 「わかりました。少し待ってください」  そう言って俺を抱え、廃城の上空へと飛び上がったヴァニル。何をするのかと思えば、城に手を翳して呪文のようなものを唱え始めた。 「おい、何するんだよ」  俺の質問など無視して、長ったらしい詠唱を続ける。すると、魔法陣のようなものが城を覆い、瞬く間に美しい城へと生まれ変わった。 「これが王魔団が誇る王城(ロワールシャトー)の本来の姿です」 「へー······えっ!? お前、こんな規模の魔法使えるのか!?」 「ええ。基本的には、貴方1人分の回復しか使いませんが。大規模なものも全然いけますよ。王魔団にいた頃、師匠から教わったんです。これは回復魔法の応用版ですね」  ヴァニルはいつも、さも当たり前のように魔法を使ってみせる。この世界に魔法が実在したと知った時は、驚きを通り越して感動しかなかった。これは、さらに胸を高鳴らせる。 「吸血鬼って皆これくらいの魔法使えんの?」 「いいえ。魔法は能力とは違い、特殊な訓練が必要なんです。まぁ、魔法なんて戦争時代の産物、今でも使えるのは私か師匠くらいでしょうね」 「師匠って?」 「先の戦争で死んでしまいましたが、私の養父でもありました。堅物で偏屈だったし、とにかく嫌われ者でしたね」  そう話すヴァニルは、いつになく純粋な目をしていた。たぶん、言うほど悪い人じゃなかったのだろう。 「ふ~ん。会ってみたかったな、お前の師匠」 「頑固な貴方となら、きっと出会ってすぐに喧嘩してましたよ」 「そうか? 面白そうだけどな」  そんな他愛のない話をして、良い雰囲気になったところで死ぬほど犯される。本当に、死ぬ寸前まで犯されるんだ。その度に回復される。  最近では、死にかける事にさえ快感を拾うようになってしまった。俺の身体は、どこまでも欲に忠実にできているらしい。  いつしか、ヴァニルが隣についてまわるのが当たり前になっていた。小間使いという(てい)で傍に置き、吸血鬼の様子見に行く際の護衛をするようになった。ノウェルとノーヴァよりも強引に距離を詰めてきて、隣に居ないと俺のほうが落ち着かなくなってきたのだ。まんまと、ヴァニルの思うツボにハマっている気がしてならない。  そんな現状が悔しくも、忙しさの中ふとバカ3人の事を想う事がある。想っては打ち消す。この心地良い関係が、もう暫く続けばいいと願う。

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