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第20話 試み
俺は、嫁探しを白紙に戻す手段を模索していた。あまり時は無い。早々に、親父を言いくるめられるだけの理由を考えなければ。
そう思っていた見合いの日の夜。
「ノーヴァ、今日は勘弁してくれ。本気で言い訳を考えにゃならんのだ」
「話はわかったけどさ、何にしても試しておかなきゃダメでしょ」
ノーヴァは、俺のちんこを弄りながら言う。
「試すたってお前····。お前のケツでイけただろ」
「お尻だしヴァニルに挿れられてたし、女でイク気ないじゃん」
「うっ····あるわ! けど、なんで手でするんだ? また女体化するんじゃないのか?」
「やっぱり女がいい?」
「女じゃなきゃ意味ねぇだろ。どうせ童貞は奪われたんだ。気にしなくていいなら、楽しめるものは楽しまなきゃ損だろ」
「ヴェルさぁ、ホント人間の割に欲に忠実すぎない? かつて出会ったことのないタイプだよ」
ノーヴァは女に変身して、いよいよ女の身体をいただく流れになった。この緊張感は何だ。武者震いか? 震えが止まらない。
悔しいが、ノーヴァの手解きに従い進めてゆく。
「そろそろ挿れていいよ。ヴァニルは手出しちゃダメだからね。この実験が終わるまで待ってるんだよ」
「わ、わかってますよ」
俺の背後に近づいてきていたヴァニルが、しょぼくれて下がっていった。
あまりにも残酷な結果だったので割愛するが、結論から言うと女の身体で達することはできなかった。
以前は憧れていた巨乳も、もちもちとした肌も、全てノーヴァが再現してくれた。
にも関わらず、女らしいモノに対しての昂りが驚くほど浅かった。ノーヴァだからだと言われれば否定は出来ないが、刺激が足りないというのが大部分だったのだろう。
良かったのは挿れた瞬間だけで、イイ所を探ってみても達するまでの刺激は得られなかった。それどころか、ケツにあいつらのモノが欲しくて、そればかりが思考を埋めつくした。
俺が、涙目になりながら『イけない····』と言うと、ノーヴァは俺を抱き締めてくれた。優しさではなく、憐れみなのだろう。
ヴァニルは何も言わずにケツを解し、俺が待ち望んでいたモノを挿入した。残念な事に、そちらの方がちんこに感じる快感よりも、数段気持ちが良いのだと判明した。
情けないやら虚しいやら、俺は唇を噛み締め涙を落としながら、奥を突かれてノーヴァのナカで果てた。バカどもの言う通り、バカどもの所為で、俺は女でイけない身体になっていた。
「俺、ホントに····女でイけない······。どうしよう、子供作れない······」
「だから無理だって言ったでしょ? ねぇもうさ、跡継ぐのなんてやめればいいじゃん。そしたら、嫁も子供も要らないよね。ヴェルのパパなんてボクが泣かしてあげるよ?」
「それは物理的にだろ。俺はアイツを精神的に追い詰めたいんだよ。俺の人生全部にレール敷きやがって、母さんが死んだ時だって俺には報せないで! 母さん看取ったのパミュラとメイド長だけだったんだぞ!? 母さんの気持ちも子供の気持ちも、何一つ顧みないクソ野郎なんだよ。アイツだけは何があっても許さない。アイツに己の生き様を悔やませてやる。その為に、俺は絶対に跡を継ぐんだ」
「······ちっさ。前に聞いた時も思ったんだけどさ、ただの我儘マザコン坊やじゃん」
「ぶふっ····。ノーヴァ、そんなはっきり言っては悪いですよ····。幾らくだらない理由だからって····」
「くだっ····お前らに俺の気持ちなんてわかんねぇよ! もういい。何もかも嫌だ。暫く俺の部屋には来るな!」
2人を追い出して、俺はベッドに倒れ込んで泣いてしまった。勝手に溢れて止まらなかったんだ。
母さんの事を思い出したのと、心の傷を嘲笑われたのと、男として終わっていた情けなさと、もう気持ちがぐじゃぐじゃだった。
何もかも投げ出して逃げてしまいたい。いっそ、今すぐ吸血鬼になってしまおうか。そう思った瞬間だった。
コツコツと窓を叩く音。ノウェルだ。ノーヴァとヴァニルよりも小ぶりな羽をバタつかせている。
俺は窓を開け、ノウェルを迎え入れた。
「お前、飛べるんだな。いよいよ吸血鬼らしいじゃないか」
「あはは。意地悪言わないでよ。あまり試したことがないから、奴らほど上手くは飛べないんだけど。····ってヌェーヴェル、泣いていたのかい?」
「······なぁ、俺を連れて飛べるか? どこか遠くに、静かな所へ連れて行ってくれないか」
ガラにもなく弱気な俺を見て、ノウェルは何も聞かずに俺を抱いて飛び立った。
どれくらい飛んだだろうか。ノウェルの腕に限界がきたので、近くの山に降り立った。都合よく無人の山小屋があったので、俺たちはそこに入った。
「悪かったな。突然こんな、訳の分からん頼みを····」
「構わないさ。ヌェーヴェルの頼みなら何でも聞くよ」
「お前は昔から変わらないな。ノウェルと居ると、昔のまま無邪気にいられる気がして落ち着くよ」
「ヌェーヴェル、何が君をそこまで思い悩ませているんだい?」
俺は、言葉を拾い集めながら心境を語った。
「君は昔から、真面目で頑固で偏屈だね。融通も利かないし、決めた事へまっしぐらだし。そりゃぁ、心が疲れてしまうよ」
「お前それ、殆ど悪口じゃないか」
「そんなわけないだろう。ヌェーヴェルの愛しい所なんだけどなぁ」
「だとしたら、お前相当イカれてるぞ」
「失礼だなぁ。まぁ、別にいいさ。何と言われようが、僕はヌェーヴェルの全てを愛しているからね」
本当にこいつは阿呆なんだろうな。こんな俺の何が良いんだ。
「お前のそれは、本心だって事はわかったよ。····お前、イェールはどうするんだ? 俺が好きだと言うなら、イェールの求愛は断るのか?」
俺は何を不安になっているのだ。イェールに、ノウェルを盗られたくないのだろうか。胸を張って“好き”だとも言ってやれないのに。
「君が僕とイェールの関係をハッキリさせたいのなら、僕はいつだってイェールを突き放すよ。イェールには申し訳ないが、今は君と愛を交わすために利用させてもらっているだけさ。僕はいつだってヌェーヴェル、君の思い通りに動くよ」
「そ··んな事····、俺が決める事じゃない。イェールの事はノウェルが決めなくちゃ、イェールに不誠実だろう」
「あははっ。君は本当に真面目だね。自分の気持ちは見ないフリして、いつも相手を優先してしまう」
「そんなつもりは····。いや、そんな事はないんだ。気づいたんだ。俺は自分の事ばかりで、お前達の好意を蔑ろにしていた。クソ親父みたいな人間にならないようにと思っていたのに、結局アイツと同じ事をしていたんだ」
ノウェルはそっと俺の肩を抱き、瞼に優しくキスをした。ふと、目が合う。俺に似た顔で、俺にはできない優しい目で俺を見つめる。
「ヌェーヴェル、ベッドに行こうか」
「······あぁ」
俺たちはたどたどしく触れ合う。2人きりでするのは初めてだから、互いに緊張を隠せず妙な遠慮を孕んでいる。
「お前が挿れるのか?」
「僕に挿れたいのかい? 君、僕相手に勃つのかい?」
「わ、わからんが····無理、ではない気がする」
これがノウェルを興奮させてしまったようで、途端に雰囲気が変わった。喉の奥を舐め回すようなキスをして、爪を立てないように俺のケツを解す。
俺がまだ緊張している事を察したのか、ケツに舌を挿れてきやがった。長い舌が、入り口のイイ所を解してゆく。
「んぁ····ノウェル、もう入るだろ。舐めるのやめろ」
「まだダメだ。もう少し解さないと、僕のこれは入らないよ」
厭らしい表情で、ノウェルは大きすぎるソレを扱いて見せた。
「はっ!? お前、この間より大きくないか!?」
「そりゃね、ついにヌェーヴェルと2人きりで愛を交わせるんだ。僕が今、どれほど昂っているか想像できるかい?」
「で、できない。わかんねぇよ。誰かを想った事なんかないんだ。好きって何だよ。恋も愛も、俺にはわかんねぇよ」
俺に欠落している感情だ。これは、誰からの好意も遮断してきた結果なのだ。
「僕と目が合うと、ドキドキするかい?」
「たまに、ドキッとする事はある」
「そのまま唇を重ねたいと思った事は?」
「最近は、稀に····」
「僕が隣に居て心は和むかい?」
「静かにしてればな」
「あはは。じゃぁ、僕が傍に居ない時、僕の事を考えたり会いたいと思ったりするかい?」
「······ごく稀に」
「それはヴァニルやノーヴァにも同様に?」
「あー····多分」
「なら、僕たち以外の人には?」
「思うわけねぇだろ」
「僕は、それが恋じゃないかと思うんだ」
「なら何か、俺はお前らが好きだって事なのか?」
「そうだと思うけど、それを決めるのはヌェーヴェル自身だよ。僕は、好いてもらえるように頑張るだけさ」
俺の手を握り、そう言って微笑んだノウェルの顔は間抜け面と呼ぶに相応しいものだった。しかし、その顔に心臓が跳ね、抱き締めたいと思った。これが恋なのか。
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