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第24話 偶然とは確率
ほとんど眠れずに、俺はタユエルの店へ赴く。親父から、先日見せた銃を仕入れるよう注文してこいと仰せつかったのだ。
「ヴァニル、タユエルが俺に何を言おうと、たとえ何をしようと、絶対に口も手も出すなよ」
「事と次第によりますよ。て言うか貴方、あんな事の後によく私を護衛につけましたね」
「これは仕事だ。私情は挟まん。だから、馬車でシようとか考えるなよ。今夜って約束だろ」
俺は書類に目を通しながら言う。チラッとヴァニルを見ると、むくれた顔で窓から外を眺めている。
「キ、キスくらいならいいぞ。軽いヤツな」
「····貴方、子供ですか?」
「もういい。指1本触れるな」
「わかりました。······ヌェーヴェル」
「なんだよ」
やらしい声で呼ばれたので、鬱々とヴァニルを見る。ヴァニルは恍惚な表情で俺を見て、滾らせたイチモツを見せつけてくる。
「バ、バカか!! こんな所でおっ勃ててんじゃねぇよ!」
「声が大きいですよ、ヌェーヴェル。御者に聞こえてもいいんですか? 夕べ、途中で終えてしまいましたからね。で、どっちの口に欲しいですか? 今なら優しくしてあげますよ?」
「······くそっ。資料に目を通さにゃならんから、し、下の口にしろ」
俺の身体だけは、欲とこいつらに従順だ。おずおずと、ヴァニルにケツを差し出す。到着まで1時間足らず。間に合うのだろうか。
「資料を読めるよう、ゆっくり優しく抉ってあげますね」
「ったく····。夜まで待てないのかよ。抜け駆けだとか言って、ノーヴァにキレられるぞ」
「待てないのは貴方も同じでしょうに。バレなきゃいいんですよ。おやおや、まだ柔らかいですねぇ。すんなりと私のモノを飲み込んでしまいましたよ」
ヴァニルはゆっくりと奥に進み、前立腺を緩く潰す。いつものゴリゴリと抉るような潰し方ではない。
なんだよ、優しくできるんじゃないか。まぁ、変態感は否めないが。
「ここ好きですねぇ。もうイきそうですか? 随分とナカうねっていますよ」
「し、知らねぇよ。ペラペラと煩いんだよバカ! 読めねぇだろ」
「それはそれは、すみませんね。静かにしてますから、資料に集中してください」
バカはどっちだ。こんな状態で集中できるわけがないだろう。
前立腺だけで2回イカされ、奥を貫かないよう絶妙な加減でグイグイ押されて、1回イッてから盛大に噴いた。
おかげで手に持っていた資料がぐしょ濡れだ。一度ざっと目は通してあったから問題はないのだが、これでは今後の仕事にも支障が出かねない。
「ヴァニル、もうお終いだ。もうすぐ着くから」
「わかりました。私ももうイきそうです。ねぇヌェーヴェル、酷くされなくてもイけるじゃないですか。どうしてあんな嘘を?」
「嘘じゃねぇ····。ノウェルが遠慮して、ふぁぁっ····ユルいセックスした時、なかなかイケなかったんだよ」
そうだ。嘘を言ったわけではない。本当に、強い刺激を与えられないとイけない身体になってしまったのだと、そう思い込んでいた。それの確認も含めて、優しいセックスを求めたのだ。
「それと、ノウェルの言う“恋”とやらが、俺にも芽生えたのか確かめたかった」
「私にですか?」
「お前達にだ。俺は····選べんかもしれん······。あ、いや、なんでもない。その話は夜だ」
ヴァニルは何も言わず片付け、何事もなかったように護衛として振る舞う。
タユエルとヴァニルを引き合せるのは気が引けるが、タユエルに襲われんとも限らんから致し方ない。
店にタユエルの姿はなく、また暇潰し射撃でもしているのだろうと地下を覗く。階段を降り始めると銃声が聞こえたので間違いない。
地下射撃場の扉をノックする。少し待つと、ギラついた目のタユエルが出てきた。
「おわっ····、どうしたんだ?」
「ヴェルか。いや、なんでもねぇ。····ん? そっちのは誰だ」
「あぁ、ヴァニルだ。俺の護衛をしている」
「貴方····タユエル・レイズィさんですか?」
「あ? なんで俺の事知ってんだ?」
「アドゥルフィの弟子だったヴァニルです。ほら、ノーヴァを引き取った」
「アドゥルフィの? ······あぁ!! あの幼女みたいな小僧引き取った変態か!」
どういう覚えられ方をしているのだ。いや、まさかここに繋がりがあるとは、世間とはどれほど狭いのだ。
「お前ら、知り合いだったのか」
「知り合いっつぅほどでもねぇよ。こいつの師匠のアドゥルフィっつぅ偏屈ジジィに、俺もちょっと間稽古つけてもらってただけだ」
「人間で言う、兄弟子と言った関係でしょうか。私からすれば、タユエルさんも師のような方ですが」
「そうかそうか。なら話は早い。ヴァニル、お前だろ? ヴェルの相手してんの」
「はぁ····そうですが」
「俺にも喰わせろ」
タユエルはニタッと笑い、圧 を掛けて言った。一瞬たじろいだヴァニルだったが、すぐに毅然とした姿勢で断る。
「いくらタユエルさんの頼みでも、それは承服致しかねます」
「ハッ····、頼んでんじゃねぇだろ。喰わせろつってんだよ。なぁ?」
タユエルは、ヴァニルの肩を壁に押さえつけると、片方の手で俺の首を掴み牙を見せた。
「なっ!? タユエル····どうしたんだ!? 来た時から様子がおかしいとは思っていたが、何かあったのか」
「や~、別にこれと言ってねぇけどな。お前がイイ匂いふり撒きながらウチに来る度によぉ、溜まるんだよ。色々とな」
「はぁ!? 甘い血の匂いか? 俺にはわからんのだから仕方ないだろ! 溜まるって何が····あぁ!! 誘ってたの本気だったのか」
「「はぁ~~~······」」
タユエルとヴァニルの溜め息が地下にこだました。
「ヌェーヴェル、タユエルさんにも狙われてたんですか。この人、昔は手当り次第好みの人間を食い散らかしていたんですよ。よく無事でいられましたね」
「俺だって理性くらいあるわ。流石に、ヴァールスに手を出すと厄介な事くらいわかってるっつぅの」
「だと思ってたから、ずっと揶揄われているだけだと思ってた。まぁ、タユエルも吸血鬼だからな。いつ理性が飛んで襲われるかわからんから、常に警戒はしていたが」
「そっちの警戒だったのかよ。お前ねぇ、鈍感だとか言われねぇか?」
「言われた事はない。俺は鈍感じゃないからな」
「タユエル、この男に何を言っても無駄ですよ。自分の事に関しては、てんで馬鹿になりますから」
「あぁ、わかるわ。たまにしか会わねぇけど、そういう片鱗は見せてるぞ。お前も苦労すんなぁ」
「はぁ!? お前ら、俺の悪口なら陰でやれよ。それより、クソ親父から発注だ」
俺は、親父から預かった書類をタユエルに渡した。それに目を通し、タユエルは言った。
「これ、何処と戦争する気だ? 小国相手じゃねぇだろ」
「知らん。お偉方から頼まれたんだろう。親父はお偉方の機嫌取りで大忙しだからな」
「にしてもこれは····。不可能じゃねぇが、気が乗らねぇなぁ」
「悪いな。お前が反戦的なのは知っているが、これも仕事だ。割り切って頼む」
「わかったよ。んで、さっきの話だけどよぉ····」
「ダメですよ。私だって返事待ちなんですから」
ヴァニルは現状を大まかに説明した。タユエルは豪快に笑って、ヴァニルを憐れむように労った。
「あっはははは!! マジで苦労してんだな。なんでヴェルはそこまで頭が固ぇんだよ。全員とヤリまくってりゃいいじゃねぇか」
「俺はそれでもいいんだが、こいつらが選べって言うんだよ。だから、ややこしくなってんだろ」
「はぁ~ん····頭固ぇのはヴァニルたちのほうか。でもまぁ、吸血鬼っつぅ生きもんの心もわかってやれよ。人間より純情だぜ」
「純情····ねぇ。欲まみれのくせに、よく言うよ」
「私はもう、一生ヴェルを抱き潰せるなら、何でも良くなってきましたよ。真正面からヴェルに純愛をぶつけるのが、いい加減バカらしく思えてきました」
「はははっ! 諦めて、全員で可愛がってやったほうがいいんじゃねぇか? 今どき純情過ぎんのも苦しいだけだろ」
タユエルの助言は、そっと胸にしまっておこう。それを聞いて複雑そうな顔で項垂れたヴァニルは、再会を惜しむことなく帰ろうと言い出した。
注文を済ませ、俺たちは帰路につく。
「純情ねぇ···。相手が1人じゃないからって、純情じゃないとは限らないだろう」
「····は?」
「頭が固いのはお前らなんだよ」
「どういう意味ですか?」
「まぁ、それは夜に。な?」
俺はヴァニルの口を指で塞いでやった。
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