孝介が立ち止まった先にある壁のポスター。 社会人同士の禁断のBLなんですけどー！！！ 「こ、孝介」 思わず孝介のトップスの裾を引っ張る。 「ん？なに？お前、観たいの、コレ」 「え」 観たいから裾引っ張った訳じゃない、んだけど...。 「あ、あの、わかってる？その...」 思わず小声。 「あ？」 「それ、ボーイズラブ、てやつでー」 俳優さんもイケメンだわ、キスあり、濡れ場あり、て腐女子から人気上映中らしいけど...。 「あー、なんか流行ってるみたいだな、ソレ」 わ、わかってる、のかな？ 「てか、所詮、演技だろ？」 そりゃ演技じゃなかったら単なるゲイビ上映会になっちゃうから！ あ、とふと思い出した。 孝介のお父さん、脚本家、て以前、言ってたな、孝介には関係ないのかもだけど...。 うーん、と唸っていたら、 「じゃ、これにするか。席決めて飲み物とか買いいくぞ」 「えーーー！！！」 これは僕の心の声。 今まで彼氏とBLの映画を観るなんてなかったし。 「ポップコーン、食べたいけど、お蕎麦にケーキ食べたしな...」 「だったらシェアするか」 1つのポップコーンを二人で食べる！ 男2人で！映画館のスクリーンでBLの映画を観ながら！ 正直、ガチなゲイの僕からしたら夢のよう...。 BL、好きだけど、男が、しかもガチなゲイが観に行くのはハードルが高すぎて...。 予告編が流れる館内で席を探し、並んで座るなり、周りの女の子たちの視線が痛い...。 孝介は大して気にしてはないみたいけど。 館内、女の子ばっかで、男二人で並んでBL観に来たの僕たちだけみたい...。 本編前、思わずきょろきょろしていたら逐一、女の子と目が合い、その度に僕はにこ、とはにかむ。 時折、キャー、だとか嬉しそうな反応。 本編のじれったいラブストーリーを眺めながらポップコーンのバケットに手を突っ込んだら偶然、孝介に指を掴まれた。 「悪い。お前の指、食うとこだった」 周りから、キャー！と声が上がり、もしやキスシーンとかかな、と前方のスクリーンを見たら、違った。 「映画より萌える」 どこからともなくそんな声がした。 「キャーーー！！！」 これは僕の心の声。 「はい！僕たち、ガチBLカップルでBL観に来てますーーー！！！」 叫び出したい衝動を抑えながらポップコーンを頬張った。