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俺達の記念日④
到着してホテルにチェックインを済ませ、会場へと向かう。
まだはるの手にはパンフ。
まあ、いいけどね。どれだけ好きで逢いたかったかわかる。わかるけど、はるの頭の中がそいつが占めてるのが気に入らない。
会場に入れば沢山のスタッフが明日のヘアショーの準備と今晩の前夜祭の為にバタバタと動いている。
その中で打ち合わせをしていたお目当の奴を見つけたはるはビクンっと身体を揺らした。
無意識だろう手のひらで口を覆う。横目でその表情を見れば、もう憧れのスターにでもあった目線。
その視線に気づいた奴がこちらへと足を向けた。
嘘・・・面識あんの?
確かにはるも美容専門紙の仕事をしてるけど、憧れてるとしか聞いたことがない。
どんどん近づいてくる奴ははるの前で止まった。
「久しぶりだね、七井君」
ハスキーな声に甘いかおりが漂う。線の細い身体に細身のジーンズに黒のジャケット。
大人な雰囲気を振りまいてはるに優しく笑う。
「お久しぶりです。花巻さん。明日のヘアショーよろしくお願いします」
少し上擦って作った声。はるの目はキラキラしていた。
「またイケメンのアシスタント連れてきたね。こちらこそよろしくお願いします」
はるの肩にポンと手を置く。その手がするりと回って肩を抱きしめた。
俺に背を向けるようにはるの肩を抱き歩き始める。
時折頭を寄せ耳元で何かを囁いている。見上げるはるは俺にも見せたことのない潤んだキラキラした目。
その後ろ姿を見ながら、溜息を吐いた。
俺が付いてくる意味があったんだろうか。別に他のスタッフでもよかったんじゃないの?
いや、こんな場面を見せつけるなら来ないほうが良かった。知らなければ知らないままのほうがいいことだってある。
ここで俺の恋人に何するんだって言えるものなら言いたい。
付き合い始めのカップルのような、高校生の頃のような事は言えなくなっていた。
あれは好意あってのことじゃないってわかってる。
俺達はあの頃からそれなりに年を取って束縛の度合いが緩くなったと思う。
それは寛容になったってこともあるけど、分別もつくようになったからだったりする。
ドカっと構えて見れるほど寛容でもないし、ヤキモチは以前に変わらず妬くんだけど。
それより何より、面識あるのに憧れ焦がれるはるにはちょっと、いやかなり、イラついていた。
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