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俺達の記念日13
お得意様を見つけたのか内田さんが握り締めた手を離した。指先を少し摘んでから。
「俺も仕事して来ようかな。夜暇なら飲みに付き合うよ」
首筋に手が回って右頬に唇が触れた。
「俺はふたりの仲人だからね、なんでも吐き出し窓口だから、溜め込まないこと。じゃあね」
間近で見る内田さんの目がほんとに優しくて縋りたくなった。
不安なんだよな、俺。はるが遠くなっていく感覚がどこかにあってこんな状況に心がついていかないんだ。
だからってここで内田さんに頼って縋っても何も解決しない。この優しさは俺が先に進む為のアドバイスなんだから。
「じゃ、夜、付き合って下さい。叶多さんとのことも聞きたいし」
その名前を口にすれば内田さんが固まった。
「君は・・・ほんとに・・・じゃあまた後で」
困った顔の内田さんは新鮮だな。
俺もはるや内田さんと対等になりたいよ。
頼ってばかりはダメだよな。
はるが俺の元に帰ってきたのはパーティも終盤で高揚した表情は面白くはなかったけど、はるが嬉しそうで幸せそうなのはそれはそれで俺も幸せな気分にもなる。
グチャグチャした気持ちはまだまだ幼稚なんだってひた隠しにする。
「着替えてから花巻さんと飲みに行く予定なんだけど・・・あきの具合が良くないなら行かない」
俺を優先してくれるのは嬉しい。
だけどそれは違うんだよな。はるの足を引っ張っちゃいけないな。
「もう大丈夫だよ。行っといで。飲み過ぎないでね」
エレベーターに乗り、ホテルの階のボタンを押す。
「あきは?」
見上げるはるにちゃんと視線を合わせた。
今日初めてちゃんと目を見た気がする。
「内田さんと飲みに行こうかと思ってる」
そう答えれば、俺の右頬を手のひらが撫でた。
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