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第2話

『ルキア…ルキア…早く…来てくれ…』 『ルキア? ルキアって誰だ? あ、俺のゲームの名前か! 』 レンは頭の中で声に答える。 『ルキア…ボタンを…押すんだ…早く…』 『ボタン…ボタンって? あなたは…誰ですか? 』 『早く…来てくれないと…私は…殺される…お前が…必要だ…』 『殺される? って誰に…ですか? 』 レンの前に現れたモヤにかかった人物は、同じ言葉を繰り返すだけだった。 レンはその人物を一生懸命に眺める。 モヤの中から緑色に光る目が見えた。 『あなたは…もしかして…』 『お願いだ…ルキア…早く…これが…最後だ…』 『待って! 待って下さい! 』 薄くなっていく人物を一生懸命追いかける。 「待って!!」 飛び跳ねる様に起きたレンの前には誰もいなかった。 「なんなんだ、いったい? 夢…なんだよな? ヤケにリアルだな…それにあの目は…」 レンはゲームのパッケージを手に取り、マジマジと眺める。 「さっきの人、この第三王子と同じ目をしてた様な…まさかね? 」 『ボタンを…押すんだ…』 さっきの人物の言っている事を思い出す。 「ボタンって…なんのボタンだよ? ゲームのコントローラーか何かか? さっきやった時にはどのボタン押しても何にもならなかったよな? 」 レンはもう一度ゲームを起動させた。 「え~っと町の病院で働いてて、俺が使える魔法は痛みを取り除くのと、少しの怪我を治癒出来る事…ん? なんだこの秘密の魔法は? さっきあったっけ? 」 レンは魔法スキルの欄に新たに加わった魔法を見た。 「姿が消せる魔法? 危機に陥った時に使う、人にこの魔法を持ってる事がバレたら悪用されるので教えてはいけない…だと? 姿が消せるか~便利だけど、バレちゃいけないならいつ使うんだ? 」 レンは不思議そうに首を傾げながら画面に文句を言う。 「まっ、いいや。 第三王子が言ってたボタンってどれだろう? 」 勝手に夢の中の人物を第三王子にして、レンはボタンを探した。 「ん? こんなのあったかな? 」 レンは自分の部屋に新たに机が置いてある事に気づく。 「もしかして、この引き出しがあっちの世界に行くとか? まさかね」 レンは恐る恐る机に近づいた。 ピロン 音が鳴り、画面に『引き出しを開けますか? 』と出てきた。 「おいおい、マジかよ…」 レンはもしかしてと勇気を振り絞り『ハイ』のボタンを押す。 机の引き出しが開く。覗き込むが何も見えない。 シーン 何も起こらない。 「なんだ? ただのバグとかか? 」 拍子抜けしたレンはその場を離れようとした。 ピロン また音が鳴る。 振り返って見てみると、机の引き出しが緑に光っている。 その後に画面にまた文字が現れる。 『中に入りますか? 入るとクリアするまで戻れません』 「えっ? マジかよ…本当か? ただのゲームだよな? でも、もしかして…本当に…」 画面に『ハイ』『イイエ』の文字がチカチカしている。 レンはしばらく考えて、 「よし! もし本当でもクリアさえすればいんだろ? やってやるよ! 」 意気込んで、『ハイ』のボタンを押した。 ウィィィィーーーン 画面が音をたてて、全部緑色になった。 「なんだこれは? 眩しい! 」 緑色の光は画面から飛び出しレンをおおっていった。 その間もレンの耳にはウィィィィーーーンの音しか聞こえない。 「クソッ! 何も見えない! 壊れたのか? 」 しばらくして音が小さくなり緑色の光も薄れてきた。 レンはようやく目を開ける事が出来た。 目を開けたレンの前には… 「まさか…うそだろ? 」 呆然と立ち尽くすレン。 それもそのはず、レンの目の前にはさっきまで画面越しに見ていた自分の部屋があったからだ。 「そんな…本当に…俺は…転生したのか? いや死んでないから、異世界に移動したのか? 転生? 異世界? いや、どっちでもいいが…」 少々パニックになり何が重要か分からなくなってきた。 「落ち着けてー、落ち着けー、俺は今ゲームの中にいる。そしてゲームの中にいるって事はクリアをしないと帰れない。で、クリアをするには…第三王子を国王にしなきゃいけない! 」 「でも、どこからすれば…ゲームでも宮殿に行くルートは出てこなかったし…」 レンが考えてると声が聞こえてきた。 「ルキア、ルキア! 早く来てくれ! 」 「ルキア? 誰だ? あっ、俺か! 今ルキアなんだ! は、はーい! 」 レン改めルキアは声がする方に走って行った。 そこにはルキアより年上の医者の格好をした男がいた。 そばには足に枝が刺さった若い男がいる。 「ルキア! 遅いぞ! 急患だ! 木を切ってる途中に、折れた枝が刺さったらしい、お前の魔法で痛みを取り除いてくれ! 」 「は、はい! 」 ルキアはよく分からないまま、ベッドに寝ている、男の足に手をかざす。 (どうやって痛みをとるんだ? とりあえずなくなれ~って祈ればいいか? ) 念を込めて手をかざすと手の平が熱くなる。 「おー、痛みがなくなっていく! ありがとう、先生! 」 「えっ? 俺が先生? あ、そっか俺は医者なんだ…」 「ルキア、何ブツブツ言ってるんだ? 早く枝を抜くんだ! 」 「は、はい! 」 痛みがなくなったので、無造作に抜いても痛がる素振りは無かった。 「よし、じゃあ次は血を止めるか。ルキアではこの量は無理だから、私がやる」 そう言ってその年上の医者は足に手をかざし、ブツブツと唱えだした。 しばらくすると、傷口から漏れ出ていた血が少しずつ少なくなっていった。 「よし! これくらい減らせば後は自然に治るぞ」 「いやー本当に助かったよ! 仕事出来なきゃ、家族も養えないからな! 先生達には感謝しかない」 「気にしなさんな、1日は安静にしてくれよ? まだ出血はしてるから」 「わかったよ、ありがとう」 足に包帯をまいて、ヒョコヒョコ足を引きずりながら、患者は帰っていった。 「ルキア、お疲れさん。俺は診療記録を書かなきゃいけないから、少し休んどけ」 その男はそう言って、紙に書き出した。

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