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第12話
ルキアとアルフは長い廊下を歩きながら兄フルークの部屋に向かう。
(それにしても広い宮殿だな。あちこちに扉があり覚えるのが大変だ)
「ルキア」
おもむろにアルフが口を開く。
「はい、なんでしょう? 」
「不思議に思うかもしれないが、私は兄上が好きではない。もちろん理由はあるが…」
「アルフ様」
ルキアはアルフの話を遮る。
「私は気になりませんよ。ご兄弟色々あると思いますし、アルフ様が好きではないのにはそれ相当の理由があると思ってます。意味無く人を嫌いになる方とは思っておりません」
「ルキア…」
アルフはルキアの言葉に感動した。そして確信した。
(やはり私にはルキアが必要なんだな。母上の言っていた事は本当なのか…)
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その日は寝苦しい夜だった。
アルフは、中々眠れず寝返りを何回もしていた。
「最近、本当に体調が悪い。眠りづらくもなった。これが兄上に知られたら揚げ足を取ってくるに違いない…」
そう考えながらなんとか眠りにつく。
『…フ…ルフ…アルフ…』
どこからともなく呼ぶ声がする。
『誰だ? 私を呼ぶのは? 』
アルフは向かってくる人影を識別しようと目をこらす。
『アルフ、私よ…』
『まさか…母上ですか? どうして…』
『アルフ、あなたはこのままだと危機に直面するわ。助けを呼びなさい』
『危機? 母上それはいったい…』
『あなたは私の死因を調べてるでしょう? 』
『はい、私は母上が病死だとは信じません! 』
『アルフ、ありがとう。気持ちは嬉しいけど、あなたとガフだけでは危険すぎるの。助けを呼びなさい』
『危険は承知です。助けをと申しましても…誰が味方かを見極めなければ…』
『ルキアを呼びなさい』
『ルキア…? それはいったい誰の事ですか? 』
『私達とは違う世界にいる子の事よ。彼が必ずあなたの助けになるわ…』
『違う世界…それはいったい…それに違う世界の者をどうやって呼ぶのですか? 』
『それはあなたが寝てる時に彼に念を送りなさい。ルキアには届くわ。お願いねアデウス国を守って…お願い…』
王妃の姿がどんどん薄れていく。
『母上、待って下さい! もう少し! 母上! 』
アルフは声を上げて目が覚めた。
「アルフ様! どうかされましたか? 」
アルフの声に慌ててガフが寝室に入ってきた。
「アルフ様、汗びっしょりですよ! また眠れなかったのですか? 」
「いや大丈夫だ。母上の夢を見たのだ」
「王妃様の? それは…」
「ガフ大丈夫だ。下がっててくれ」
ガフは心配そうな顔をしたがアルフの言葉に従い下がっていった。
(今のはただの夢なのか? それとも、そのルキアという者が本当に存在するのか? )
「…ルフ様! アルフ様! 」
ルキアの声でアルフは我に帰った。
「アルフ様、大丈夫ですか? 急に黙られたんで…」
ルキアが心配そうにアルフの顔を覗きこむ。
(あれから母上に言われた通りにしたら、ルキアが私の前に現れた。初めて会った時は本当に驚いたな。まさか侍医としてこっちの世界にいるとは…)
アルフは改めてルキアを見る。
(この子はどうしてこっちの世界に来る決断をしたのだろうか? いつか聞ける時はくるのか…)
アルフは心配してるルキアの頭をポンポンと触り、
「すまない、少し考え事をしてな。体調は大丈夫だ」
「なら良いのですが…」
そう言ってるうちにフルークの部屋の前に着いた。
アルフは1回ため息をつきフルークの部屋をノックした。
「兄上、アルフです」
「入れ」
中から、声が聞こえた。
「失礼します」
声をかけアルフとルキアは部屋に入って行く。
部屋のソファに優雅に座っているフルークがいる。
その側にはフルークの側近ファーストがいた。
アルフは無表情のまま近づいていき挨拶をする。
「兄上、お待たせしました。侍医のルキアをお連れしました」
ルキアはアルフの少し後ろから、
「ルキアと申します」
と、挨拶をした。
顔を上げたフルークがルキアをジロジロと見る。
(この人がフルーク様か、父親が同じだから少しアルフ様に似てる。けど、眼光が鋭くて見つめられると怖さを感じてしまう)
青い目をしたフルークはルキアを見たあと、
「変わった人種だな? 黒い髪に、黒い目。お前は男だよな? 小柄で色も白い。女みたいだな」
(グッ! 人が気にしてることをズバズバと言いやがって! 引きこもり気味だから、焼けてないし、日本人はお前らに比べたら、低いんだよ! これでも日本では平均だ! )
口に出したいのをなんとか堪え笑顔で答える。
「はい、男でございます。隣国の生まれなのもでアデウス国には余りいないかと…」
「ふーん、隣国ね。お前は侍医なんだろ? 魔法はどれくらい使えるのか? 」
「魔法ですか? それなりには使えますが、師匠ほどでは…」
「小さな傷とかは治せるのか? 」
「はい、大量出血とかではなければ…」
(この人はなんでそんな事を聞いてくるんだ? )
ルキアは、フルークの質問の意味が分からずにいた。
フルークはおもむろに腕をだしてきた。
そこには引っかき傷みたいな傷がある。
「この傷を消して欲しいのだが、出来るか? 」
「えっ? 今ですか? 」
ルキアは少し困ってアルフを見た。
アルフは黙って頷く。
(これは、やってやれって事だよな? )
ルキアは仕方なくフルークに近づき、
「失礼します。傷に触れますが大丈夫でしょうか? 」
断りを入れる。
皇族の人間にむやみに触れるとはご法度と聞いていたからだ。
「ああ、傷を治すのだから触って大丈夫だ」
「ありがとうございます。では、失礼して…」
ルキアはフルークの腕をとり、反対側の手を傷口に当てる。
少しして手を離すとさっきまでの引っかき傷はなくなっていた。
「ほう? さすがだな。痛みもなくなってるぞ」
フルークは腕を振りながら痛みがないのを確認した。
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