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第13話

その様子を見ていたアルフが、 「兄上、その傷はどうなさったのですか? 動物というより人に引っかかれたようでしたが…」 「ああ、ちょっとメイドにちょっかいかけたらびっくりして引っ掻いてきたんだ。俺を傷つけたら処罰されるだろ? 可哀想だからなかった事にしてやるのさ」 「そうですか…」 ルキアは唖然とした。 (メイドに手を出しただって? そんな相手の意思も聞かず…) ルキアはアルフの顔を見た。アルフは表情は変えていないが怒りが顔に出ているのが判る。 (アルフ様も俺と同じく怒ってるんだ…) 「ではルキアも紹介したので、私達はこれで…」 アルフは言う事は聞いたと言わんばかりにルキアを促して出ようとした。 「まあ待て、アルフ」 フルークがルキアの腕を取り引き寄せた。 「うわっ! えっ? 」 引き寄せられたルキアはそのままフルークの膝の上に着地する形になった。 「兄上! 」 アルフの声が厳しくなる。 「もう少し眺めさせろ」 そう言ってフルークはルキアの頬をさわる。 (ど、どうしよう…暴れると良くないだりうし、でもアルフ様は怒ってるし…) ルキアはどうすることも出来ず固まった。 「ふーん、本当に綺麗な肌をしているな? 触り心地も滑らかだ。気に入った。ルキア俺の所で働かないか? 」 アルフは拳を握り怒りを沈めながら、 「兄上、ほどほどになさいませ。ルキアは私の侍医でございます」 「冗談じゃないぜ? こんな可愛い子なら側室にしてもいいぞ」 そう言ってフルークはルキアの頬にキスをした。 「兄上!! 」 アルフはルキアを強引にフルークから離し自分の後ろに隠す。 「兄上、これ以上は許しませんよ。失礼します! 」 アルフはルキアを連れて部屋を出て言った。 その一部始終を見ていたファーストが初めて口を開く。 「フルーク様本気ですか? あの者を側室にとは? 」 「まあそれはどちらでも良いが、アルフの様子を見ると相当お気に入りらしいな」 「はい、既に宮殿内で噂になっております」 「今日の今日来たのにか? それは面白い。ファースト、アルフのお気に入りのルキアを定期的に呼べ」 「それはアルフ様がお許しになるか…」 「あいつが政務中の時に呼んで来ればいい。アルフの悔しがる顔がみたい」 「分かりました」 ファーストは静かに頭を下げた。 その表情には微かな嫉妬が現れていたが、フルークが気づくことはない。 __________________ ルキアは前を歩くアルフの表情が分からず不安になっていた。 無言で歩くアルフの背中からは怒りが読み取れた。 (どうしよう…俺がちゃんと断れなかったから怒ってるのかな? ) ルキアは話しかけられずにアルフの後ろを着いて行く。 行きは短く感じた道のりが帰りはとても長く感じられる。 アルフの部屋の前に着いた。アルフは黙って扉を開ける。 ルキアは自分も入っていいのか分からず扉の前で足を止める。 アルフは振り返って入るよう顎で指示した。 「し、失礼します…」 ルキアはアルフの後にソロソロと中に入る。 中にはガフがいて2人に近づきながら声をかける。 「お帰りなさいませ。その様子ですと…ご不満そうですね? 」 アルフの顔を見て直ぐに気がつく。 (さすがガフさん違いにすぐ気づくんだな) ガフがルキアに何があったか尋ねようとした。その時、突然アルフがルキアを抱き締めた。 「えっ? ア、アルフ様? 」 「アルフ様! おやめに! 」 ルキアとガフは同時にビックリする。 「ガフ、黙っててくれ」 アルフの声は真剣でふざけてる感じではないとわかったガフは、それ以上制するのは止めた。 (ど、どうしたんだ? 急に…なんでアルフ様は俺を…) ルキアはどうしていいか分からずガフを見た。 ガフは静かに首を振り大人しくするよう頷いた。 (そ、そんな…なんで俺は抱き締められてるんだ? ) ルキアはアルフの意図が分からず困惑した。 アルフはしばらく抱き締めた後、少し体を離しルキアの頬を触る。 ルキアはアルフに頬を触られ顔が赤くなった。 (なんなんだよ! なんでそんな切ない目で見るんだ? 俺に怒ってるんじゃないのか? ) ルキアはアルフに触られて顔が赤くなるのがわかった。 (クソッ! これじゃアルフ様に恋してる奴と思われるじゃないか! 俺のバカ! すぐ赤くなるんじゃない! ) アルフはしばらく頬を触っていたが静かに顔を近づけルキアの頬にキスをした。 (!!!!!!) ルキアはビックリして更に体が固まる。 ガフも驚いた顔をしている。 (な、な、何を? あ、さっきフルーク様にキスされたからその仕返しか? ) キスされた場所はさっきフルークにキスされた場所だった。 「ゴホンッ! アルフ様、そこでストップでございます」 流石にこれ以上黙ってるのはマズイと思い、ガフが声をかけた。 ガフの声掛けにアルフは素直に従う。 「ルキア、さっきは守ってやれず済まなかった。もう少し早く離してたら口付けもされなかっただろう。自分の不甲斐なさに腹が立つ」 ルキアを離し自分の怒りの原因を話した。 (あ、アルフ様は、自分に怒ってたのか…そんな…) 「ア、アルフ様、私は大丈夫ですのでお気になさらず。さっきはビックリして固まりましたが、次はかわせるので大丈夫です」 ルキアはアルフを心配させないように元気に説明した。 (怒ってないならなんで同じ所にキスしたんだ? ) ルキアはアルフにキスされた頬を触る。 「ルキアに口付けしたのは消毒だ。兄上の念が入ってると困るからな」 普段のアルフらしく茶目っ気に説明した。 「そ、そうでしたか…」 (消毒…全く驚かせないで欲しい…アルフ様には普通でも俺には免疫がないんだから) ルキアは八雲レンの自分を思い出し嘆いた。 (本当にモテない人生だったよな…) ルキアの心の落ち込みには気づかないアルフはうーんと伸びをし、 「さて、私は少し休むとするよ。2人とも下がってくれ」 と、言って寝室に入って行った。 「かしこまりました」 「失礼します」 ガフとルキアは頭を下げアルフの部屋を出る。 「ルキア殿」 アルフの部屋を出てガフがルキアに話しかけた。 「フルーク様のお部屋で何があったかご説明お願いします」 「あ、は、はい…実は…」 ルキアはフルークの部屋の出来事をガフに説明しだした。

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