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第30話
「それで、兄上と寝たのかい? 」
自分の部屋にルキアを入れるなり聞いてきた。
「違いますよ…どこから言えば…」
ルキアはどうしてアルフの部屋に泊まることになったか説明に困っていた。
(塔の階段の事は言っちゃいけない、アルフ様が風の魔法を使えるのも言っちゃいけない、俺が違うところから来たのも…カオ様ならいいだろうけど…とりあえずまだ…じゃあ何も言えないじゃん! )
ルキアは一生懸命考えた挙句簡単な説明に落ち着いた。
「えっと…アルフ様と星を見て、キス…じゃなくて口付けされて、そのまま抱っこされて部屋につれて行かれ一緒に寝ました。が、何もしておりません! 」
ルキアの説明をカオはポカンとした顔で聞いていた。
「いやいや、そんな簡素な説明で分かるわけないよ! なんで急にいいムードになる訳? 」
「そ、それは…何となく…」
「でも何もしてないと? 」
「は、はい。その後は普通に寝ただけです! 」
「本当に? あの兄上が夜を共にして手を出さなかったのかい? それが信じられない…」
今までの事を見ていたカオの言葉には説得力がある。
「そ、そう言われましても…私に魅力がないのでは? 」
「それはないよ! ルキアは可愛いし、多分大事にしたいからそこ手を出さなかったんじゃないのかな? 」
「そうなんですかね? 」
「ルキアは兄上が好きなのかい? 」
「好き…好きだと思いますが、今まで誰にも恋愛感情を抱いた事がないので、この気持ちがそれなのか分かりかねます」
ルキアは自分でも考えていた思いをカオに話した。
「そっか…好きね…私はガフ殿しか目がいかないから、それ以外の人に言い寄られても何も感じないからな…」
「私は他の方に言い寄られる経験もないので比べられません」
「いやいやルキア、フルーク兄上に言い寄られてるんだろ? 抱き締めたとか頬に口付けしたとか聞いてるぞ? 」
「それは嫌がらせの様なもので、口説かれてるとは違いますよ? 」
ルキアの発言にカオはため息をつく。
(うっ…ヨリムさんと同じ反応してる…)
「ルキアは私より年上なのに恋愛には相当疎いんだな? フルーク兄上が嫌がらせの為だけにルキアにそんな事はしないよ? 少なからず興味を持っているんだよ! 」
「そうですかね…ところでカオ様、フルーク様の側近のファーストさんはどんな方なんですか? 」
ルキアは前から気になっていた事を聞いた。
「えっ? ファーストかい? 確かガフ殿と同期だと聞いてるぞ? 兄上に使える前は一緒にいる事も多かったそうだが、ガフ殿がアルフ兄上、ファーストがフルーク兄上に使える様になってからは疎遠になったそうだ。でも、どうして聞くんだい? 」
「いえ、ファーストさんがやけに私に敵対心を持っていたので、フルーク様と関係があるのかと思って」
ルキアは以前ファーストに睨まれた事や、自分にちょっかいかけてる時のファーストの様子を説明した。
「ルキア…お前は人の事には良く気づく癖に、自分の事はサッパリなんだな? 私でさえ気づかなかったよ? 」
カオが感心したようにルキアを見た。
「確かに言われて見たらファーストの動きは兄上を思ってが多い。ただ、側近だからと言ってガフ殿みたいに元々学友ってわけでもないから、一定の距離はあるな…」
「ファーストさんはどうしてフルーク様の側近に選ばれたんですか? 」
「確か…兄上の最初の側近が1年程で首になって、その後の審査でファーストが自ら志願したと聞いたよ」
(ファーストさんが自ら志願…その時からフルーク様を好きなのかな? )
「もし、ファーストが本当に兄上が好きだとしても、兄上は絶対気づいてないと思うよ。ファーストに女の人を自分の寝室に呼ぶよう手配させたりしてるからね」
「それは辛いですね」
「皇族の者が気にいるならまだしも側近からアプローチは出来ないだろうからね…まあ私も中々…そうだ! ルキア、聞いてくれ! 」
ルキアとアルフの事で自分とガフの間にあった出来事をルキアに話すのをすっかり忘れていた。
「ど、どうしたんですか? 急に? 」
「実は昨日…」
カオは昨日のガフとの出来事をルキアに話した。
「えっ? ガフさんが自らカオ様を抱き締めたんですか? 」
「う、うん…」
「カオ様、それはガフさんも少しカオ様の事を意識しだしたんではないですか? 今までのガフさんからは想像出来ません! 頑張って自分から抱きついたのがよかったんですよ! 」
ルキアに言われてカオの顔に笑みがこぼれる。やっぱり自分だけで思うのと人に言われるのでは違う。
ルキアに言われて少し希望が持てたカオだった。
「明日は社交界がある。私も隣国の娘達とダンスをしなければ行けないからガフ殿のそばには居られない。変な虫がつかないよう見張っててくれ! 」
「大丈夫ですよ、ガフさんはアルフ様のそばから離れないでしょうから。でもカオ様も隣国の王女や皇族のご令嬢達とダンスしなければいけないんですね」
「そうなんだ、私も父上からそろそろ婚約をしろと言われててな…のらりくらりと交わしてるが…」
(カオ様…天真爛漫なお方だと思っていたけど、やっぱり王子とあって色々大変なんだな…)
「カオ様! 私もガフさんの事はご協力しますので頑張りましょ! 」
カオの話を聞いて、ガフにもカオへの気持ちが芽生えてきたと思ったルキアはある考えが浮かんでいた。
「ルキア、ありがとう。お前が友になってくれて嬉しいよ」
「私もです。カオ様」
2人は硬く握手をし笑った。
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