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第35話
ガフに言われ再度ルキアの方を見ると色々な男達にダンスに誘われていた。
ルキア本人は困ってオロオロしている。メイド達は目でアルフに早くと促していた。
アルフはゴホンッと、咳払いをして体勢を整える。
ヨシッと、いつものアルフに戻ると静かに男達に近づいていく。
アルフが近づいて来たのがわかると皆横に履けた。
下を向いているルキアの元に近づき咳払いをした。
ルキアが顔をあげる。
「ア、アルフ様! 」
ルキアが、慌てて言い訳をしようとするのを、口に指を当て静かにするように見せた。
ルキアが黙ったのを見てアルフは膝まづいた。
その行動に周りが驚く。
アデウス国では、相当気に入った相手にしか膝まづいて誘わないのを知っているからだ。
だいたいは一礼してダンスに誘う。
しかもアデウス国の王子アルフが膝まづいたとなれば、周りが驚くのも無理はない。
「アルフ王子が膝まづいたぞ? 」
「アルフ様が? まさか、本気で誘ってるのか? 」
周りのガヤガヤなど気にしてない様子で、アルフはルキアの手を取り言った。
「とても素敵なあなた様をダンスにお誘いしたいのですが、よろしいでしょうか? 」
そう言うとルキアの手の甲にキスをした。
会場が今日一どよめく。アルフの行動は初めて見る物だった。
ルキアは真っ赤になりながらチラッとガフを見た。
頷くガフを見てアルフの方を向きなおす。
「えっと…はい、私で良ければ…」
ルキアがOKを出した事で再度会場がわく。
アルフは立ち上がりルキアの腕を自分の腕に絡め広場に歩いていく。
驚きの光景にみんな黙って道をつくる。
広場の真ん中に来ると静かに音楽が始まった。クラシックの様な静かな曲調に2人は踊り出す。
その光景の美しさに皆感嘆の声をもらしていた。
当の本人達は小さい声で話をしていた。
「ルキア、随分と可愛くなったな? 」
「私の希望ではございません! アルフ様のメイド達に遊ばれたんです! 」
「そう不貞腐れた顔をするな。みんなお前の可愛さに、誰だ?と騒いでるぞ」
「からかわないで下さい! 」
「こら、王女はそんな話し方しないぞ? 」
「やっぱりアルフ様も女の姿の方が良いのですか? 」
不貞腐れ気味に話すルキアにアルフは微笑んだ。
そして、ルキアの腰に手を添えるとグッと自分に引き寄せる。
『キャー』会場から悲鳴の様な声がする。アルフの大胆な行動に男女問わず固唾を飲む。
「ア、アルフ様! 」
アルフの抱擁に心臓が激しく鼓動する。
(クソッ! こんな恥ずかしい思いは人生で初めてだ! ダンスなんかした事ないのに、踊れるし! ゲームの機能が優しすぎだろ! アルフ様は慣れてても、俺は全部初めてなんだぞ! )
心の中で八つ当たりをしながらアルフを見る。
アルフの微笑みはルキアをノックアウトするのに充分だった。
(本当に、綺麗な目だ。この緑の目に見つめられるとドキドキが止まらないんだよな…ホントずるい…)
「ルキア、私に余裕があると思っているのか? それは違うぞ? この瞬間もお前を閉じ込めて誰の目にも見せたくないと思ってる。それ位お前は可愛いんだよ」
そう言ってルキアの耳元に囁いた。
「みんなの前だがお前に口づけしたい」
アルフの言葉にルキアは真っ赤になりながら睨む。
アルフは、
「そんな顔を可愛いと思うんだよ」
笑いながらダンスを続けた。
その光景を見ていたアリーンはサンドラを叱咤した。
「あの子は誰なの? 参加者の名前にもいなかったわよ? 」
「知りませんよ、私も! 」
「サンドラ、あなたまだアルフを物に出来ないの? 婚約者候補を探す時自信満々だったでしょ? 」
「だって…アルフ様、婚約者になってから急にガードが堅くて…」
「早くあの薬を使いなさい! 」
「使いたくても、2人だけになれないから無理ですよ! 」
サンドラも半ば投げやりに言い返した。
自分なりに頑張ってきたのに振り向いてもらえず、悔しくて仕方がない。
「あのルキアって子が来てから、アルフ様は益々変わられたわ…ルキア…ルキアだわ! 叔母様! あの子、ルキアよ! 」
「なんですって? あの侍医のルキアがあの娘なのかい? 」
「そうですわ! 女の格好してるけど…」
アリーンはアルフと踊っている女の子をマジマジと見た。
「本当だわ…アルフ、堂々としてるわね。ルキアね…あなたをアルフにあてがうよりルキアを排除した方が早そうね」
「叔母様、何を考えてるの? 」
サンドラの質問には答えず執事を呼び「フルークを呼んで来てちょうだい」と伝える。
「サンドラ、あなたは今日は帰りなさい。今のアルフにあなたが言い寄っても無理だわ。まずルキアを排除してからでないと」
「そんな…父上にどう説明すれば…」
サンドラは情けない顔をする。
「兄上には私から言っとくわ。あなたは何もしなくていいの。分かったわね? 」
「はい…」
悔しそうな顔をするがサンドラもアリーンや父の力がないと何も出来ないと分かっているので黙って引き下がる。
アリーンとサンドラの会話をすぐ近くで聞いていたカオがいた。
カオは早足でアルフ達の元に急いだ。
広場では踊り疲れたルキアがアルフに着替えたいと言っていた。
「もう、勘弁して下さい! 着替えて来ます! 」
「勿体ないが仕方ないな。そのままだとお前に群がる男どもが耐えないからな」
「全く…」
ブツブツ文句を言いながらメイド達と着替えに行った。
その後ろ姿をニヤニヤしながら見ているとカオが近づいてきた。
「兄上、あの子がルキアって本当ですか? 」
「よく気づいたな? 」
「やっぱり、実はさっき母上とサンドラ王女が話していたのを聞いて…」
さっき2人が話していた内容をアルフに伝えた。
話を聞いたアルフの顔色が変わる。急いでガフを呼ぶ。
「ガフ! ガフ! 」
「どうされましたか? 」
「ガフ、ルキアを探してくれ! 危ないかもしれない。私も行きたいが、今はここを離れられない! 」
「かしこまりました」
アルフのただ事ではない様子にガフは理由も聞かず早足に会場を出ていく。
「兄上、私も見てきます! 」
「気をつけろよ」
「はい! 」
カオもガフに続いて会場を出て行った。
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