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第38話
「兄上!! 」
アルフが後を追うとしたがルキアが止めた。
「アルフ様私は大丈夫なので。フルーク様を追わないで下さい! 」
「ルキア、お前はあんな思いをして許すのか? 」
「そうではないですが…大事になってもアルフ様に迷惑がかかります! 会場にお戻り下さい! 」
「そうです、アルフ様とりあえず会場にお戻りを。ルキア殿は私がちゃんとお守りしときますから! 」
ガフにも言われアルフは舌打ちをしながら2人に従う事にした。
「ルキア、後で詳しく教えるんだぞ? それに顔の怪我を消毒しとけよ? 」
ルキアはコクコクと頷く。
「分かったな? 」と、ルキアに念を入れ部屋を出て行った。
アルフが出て行った直後ルキアが崩れ落ちる。
「ルキア殿! 大丈夫ですか? 」
ビックリしてガフが慌ててルキアを支える。
「す、すいません…ホッとしたら力が抜けて…アルフ様が心配しないように気を張ってたので…」
「とりあえずここを出ましょう。アルフ様の部屋にでも…」
ガフが言いかけた時カオが入ってきた。
「ルキア! 大丈夫? 」
「カオ様! 」
「おっと。ルキア殿、危ないですよ! 」
ルキアは慌ててガフから離れようとしたが、力が入らずまた支えられてしまう。
(カオ様の前でガフさんに抱きつくのはマズイのに力が入らない…)
ガフはなぜ急にルキアが暴れたか分からず、しっかり抱き抱えてしまった。
「ルキア、大丈夫かい? 顔に怪我してるじゃないか! 」
「はい、大丈夫です。すいません…」
「なんで、私に謝るんだ? 」
意味が分からずカオはキョトンとしている。
(そっか、この状況でガフさんに抱きつくのは大丈夫なのか? カオ様も純粋に心配してくれてるし…人のヤキモチはよく分からないな…)
酷い目にあったのに現実味がなくどうでもいい事を考えていた。
「あ、いえ…カオ様にまでご心配をかけて…私は大丈夫ですので…」
「とりあえずルキア殿をアルフ様のお部屋に…」
「兄上のお部屋に行くなら私の部屋で着替えさせましょう! その方が近いし人目にもつきづらいです。ルキアはまだ早く走れないでしょうから! 」
「そうですね、カオ様すいませんがお願いします」
ガフに頼まれカオは嬉しそうな顔をした。いつも自分が頼み事を聞いて貰っているので、ガフに頼られるのが嬉しいのだ。
その様子を抱えられながらルキアは心の中でニヤニヤしていた。
(酷い目にあったけどこの事で2人の距離が近づけはいいなー)
3人は人目につかない様に急いでカオの部屋に向かった。
人払いをしカオはルキアに自分の服を渡す。
「とりあえずこれに着替えて。サイズはそんなに変わらないと思うから」
「すいません、カオ様…」
ルキアは服を持って隣の部屋に行った。
カオはルキアが部屋に入ったのを確認してからガフの手を取る。
突然手を握られガフは動揺した。
「カオ様? 」
「ガフ殿、この手の傷はどうしたんですか? 」
「ああ、これですか? ファーストを殴った時に出来た物です。大したことないですよ」
動揺がバレない様にガフは慌てて手を隠した。
「ガフ殿! ダメですよ、消毒しなければ! 今薬草クリーム持って来るので座って下さい! 」
カオに促され渋々ソファに座る。
カオは持って来たクリームをガフに塗ろうとした。
「カオ様、自分でやりますので! 」
「もう、ガフ殿! 私の事信用してないのですか? これ位出来ますよ? 」
「いえ、そういう訳では…」
「では任せて大人しくしていて下さい! 」
「分かりました…」
カオに手を取られクリームを塗られる。時折「痛くないですか? 」と聞きながら顔をあげるカオに、ガフは動揺する。
こんな至近距離でカオを見るのは抱き締めて以来だ。ガフはあの時の事を思い出しまた体の奥から湧き上がる感情と戦っていた。
それはとてももどかしく、言葉では言い表せない感情だった。
ただ分かっているのはカオが近くにいる時にその感情が現れるって事だ。
その様子をルキアが隣の部屋のドアの隙間から見ていた。とっくに着替え終わり化粧も落としたが、部屋に戻ろうとしたらこの状況だったので邪魔してはと様子を見ていたのだ。
(カオ様、少し積極的になってきてるな…ガフさんも動揺を隠してるけど、目はカオ様を直視してるし好きだって気づくのもそろそろじゃないかな? )
ルキアはカオにエールを送りながら覗きに徹している。
「カオ様、会場に戻らなくて良いのですか? アリーン様が心配でお探しになるかもしれないですよ? 」
唐突にガフが言った。
「母上が心配してるのは自分の体制だけです。私は母上の駒として動くのは嫌です! 好きでもない子とダンスとか…」
カオはさっき無理やり踊らされた事をボヤいた。
「でもとてもお似合いでしたよ」
サラッと言ってしまったガフの発言にカオの顔がひきつる。
(うわっ! ガフさん、それは言っちゃいけないやつ! )
ルキアも1人でツッコミを入れる。
「ではガフ殿は私が嫌でも母上に進められた子と踊れと? 」
カオの言い方に自分の言い方がまずかったと気づいたガフは慌てて言い訳をする。
「ち、違います! カオ様のダンスはとてもお綺麗なので、お綺麗な方と踊るととてもお似合いに見えてってこ事で…」
カオの顔が泣きそうになってきた。
(ガフさん、全然フォローになってないって! )
ルキアはもどかしい気持ちで覗いている。
「私だって踊りたい相手と踊りたいですよ…」
「カオ様、そんなお相手がいらっしゃるのですか? 」
驚いた様な顔をして質問する。
(ああ~、それも言っちゃいけないやつ! )
ルキアは顔をおおった。
「もう! ガフ殿の鈍感! いいです! 私も会場に戻ります! ルキアをお願いします! 」
そう言ってカオは自分の部屋を出ていってしまった。
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