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第44話
社交界から数日ルキアの頭はアルフの事ばかり思い出していた。
ここ数日はアルフが隣国に仕事で行っており、会えてないが社交界の日の事を思い出しては1人てニヤニヤしている。
「…キア…ルキア…ルキア! 」
「うゎ! びっくりした! 何ですか? ヨリムさん? 」
「ったく、お前は最近ぼーっとし過ぎだぞ? どうせ社交界の時の事思い出してたんだろ? 顔がニヤついてる」
「そ、そんな事ないですよ! 」
「確かにお前の女装は可愛かったしな、アルフ様が参るのも仕方ないな」
「き、気持ち悪い事言わないでください! もう女装は嫌です! 」
「まあ女装でお前がウロウロしてたら、アルフ様も気が気でないだろう。ところでお前にお客さんだぞ? 」
肝心な事を最後に言うヨリム。
「もう、先に言ってくださいよ! 誰ですか? 」
「行きゃ分かるよ。なんか怒ってたから気をつけろよ」
「えっ? なんで? 」
「さあな、お前がその子にも手を出したとかじゃないのか? 」
「その子って誰ですか? 心当たり全くないですよ? 」
「言うなって言われたからな、教えられないよ。とりあえず行ってこい。女だから喧嘩しても負けないだろ? 」
ヨリムは強引にルキアの背中を押して診療所の外に放り出した。
「ちょ、ヨリムさん? もう乱暴なんだから」
パンパンと汚れを叩いてるルキアの視界に女の子の足が見えた。
そのまま顔を上げたルキアの前に1人の女の子が立っていた。
「き、君は…」
意外な人物にルキアは驚いた。
そこに立っていたのはチヒロだったからだ。
「こんにちは、ルキアさん」
ペコリと挨拶をしたが確かに顔は怒っている。
(この子、サニー様の侍医の…社交界で俺の事睨んでたっけ? 俺何かしたのかな? )
「えっと…チヒロさんだよね? サニー様の侍医の…」
「はい、そうです」
「私に何の用事ですか? 」
「ちょっとお話があるので一緒に来てください」
そう言うと、ルキアの返事も待たずスタスタ歩いて行く。
「えっ? ちょ、ちょっと待ってください! チヒロさん? 」
声をかけても足を止めないので仕方なく後ろをついていく。
(一体、俺に何の用事だ? なんで怒ってんだろう? こないだの社交界が初めましてだよな? サニー様の事で何か相談とかあるのかな? )
後ろをついて行きながら色々考えを巡らせたが、さっぱり分からないので考えるのをやめた。
チヒロは診療所の裏にある薬草を広げて乾かす場所で足を止めた。
振り返りルキアを見る。
「ここなら人に聞かれずに話が出来るでしょ? 」
「はあ…」
そんな人に聞かれたくない話をする間柄でもないが従う。
チヒロは一呼吸置いてルキアを真っ直ぐ見つめ口を開いた。
「単刀直入に聞くわ。あなた八雲レンでしょ? 」
「えっ? 」
突然前の世界にいた時の名前を呼ばれ、ルキアは脳天を勝ち割られた。急に全身の血の気が失せフラッとよろける。
そんなルキアにチヒロは再度詰め寄る。
「もう1度聞くわよ。あなた八雲レンよね? 日本の〇〇大学医学部3年生の? 」
名前以外に大学名も言われた。
「な、なんで? 君は一体…」
驚きすぎて言葉も出ない。
「あなた、こんな近くで見ても分からないの? 」
「わ、分からないって? 」
はぁとため息をついてチヒロは答えた。
「私は立川千尋、同じゼミの生徒よ。何回も会ってるわ。まあ前の世界ではメガネをかけていたから少し違うかもだけど」
「えっ? 君が立川さん? 」
チヒロをマジマジと見た。確かに立川という名前に覚えはある。同じゼミの子でメガネをかけた才女というイメージだった。
ルキア(八雲レン)とは絡みがないし、話すこともほぼ無かった。
メガネを外した姿も見た事が無かったので同一人物だとは思えなかったのだ。
それに、この世界に同じ大学の子がいるなんて思うわけがない。
「本当に君が立川さん? なんでここにいるの? 」
「あのね、それは私のセリフよ! 私がゲームをしててらこちらに転生してきたの! それがあなたもいたなんて驚きよ! 」
「えっ? じゃあ立川さんもアルフ様を国王にするミッションのゲームをやってるの? 」
ルキアの言葉にチヒロは顔を顰めた。
「あなたのゲームはそんなのなのね? どうりでおかしい訳だわ…」
「違うの? 」
ルキアはてっきりチヒロもそのゲームで来てるものだと思っていた。
「違うわよ! 全く! 私のゲームは、『悪徳義母に虐められるサニー王女を救え! 素敵な王子を見つけ結婚させろ! 』よ! 」
一息に読み上げる。
「そ、そうなの? 」
チヒロの希薄に押される。
キッとルキアを睨み続ける。
「それなのにー! ゲームの中ではアリーンに虐められてて、でも頑張って耐えてていつか素敵な王子様と出会う事を夢見て、前を向いてるサニー様なの! だから、応援したくて転生してきたのに、来てみたら全然虐められてないし、むしろ強気な子だし、全然素敵な王子様を求めてないし、なんならBL好きで、自分の事より他人のカップルばっかに目がいって、何回言っても聞いてくれなくて! 全然来た意味ないじゃない! 」
最後は叫ぶように捲し立てゼイゼイと息をする。
「えっと…だ、大丈夫? 」
「もう、あなたのせいよ! あなたも来たせいで私のゲームよりあなたのゲームの方が強いのかそっちベースになってるの! もう、あっちもこっちもBLばっか! 」
「それで、俺に怒ってたのか… 」
ようやく意味がわかった。
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