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第57話
「ガフ殿、ルキア大丈夫でしたか? 」
部屋に戻ってきたガフにカオが心配そうに聞いた。
「はい、もう元気になっていたので大丈夫ですよ」
ガフの言葉でホッと息を吐く。
「あー良かった。突然意識を失ったと聞いて驚きました。前も具合悪い時があったからどこか悪いのかな…」
カオの心配そうな表情にこれから更に辛くさせると思うとガフは流石に躊躇った。
嘘はつきたくないがカオを悲しませるのはもっと嫌だった。
「ガフ殿、どうかされましたか? 」
何も言わず悲しそうな顔で自分を見てくるガフ。
カオは少し不安になった。
「何か言いたい事があるんですか? 」
ガフは真っ直ぐカオを見て、
「カオ様、大事なお話があります。最後まで聞いてくれますか? 」
ガフの真剣な顔にカオは不安そうに頷いた。
ガフはカオをソファに座らせ自分も隣に座る。
カオの手を握り、今までの事を包み隠さず話し出した。
ルキアが異世界から来た事、その理由はアルフの助けをするため、王妃の死の真相を調べるため、その死にアリーンが関わっている事、その事実をルキアが聞いた事、アリーンとオームの関係、ルキアの魔法について…
ガフが話している途中、何度かショックで逃げそうになるカオを、ガフは絶対離さなかった。
涙ながらに叫ぶカオを何度も引き寄せる。
それでもカオはガフの腕の中で暴れれ、「離して! 」と何度も何度も叫んだ。
事実を知らされたショックも大きいが、自分だけ知らされず、のうのうと暮らしていた事にもショックを受けていた。
自分の母親のせいで王妃が亡くなり、アルフがそれを憎んでいる。
その息子の自分を毎日見ていたアルフの心を思うと、消えていなくなりたかった。
「カオ様、落ち着いて下さい! 」
腕の中で暴れるカオに何回も声をかける。
「やだ! 離して! ここに居たくない! 」
「ダメです! 落ち着くまで、絶対離しません! 」
ガフは、一層力を入れて抱き締める。
ガフの力には敵わないのは知っているが、カオはひたすら暴れた。
それでもガフはじっとカオを抱き締め続ける。
しばらくすると、流石に疲れてガフの腕の中で息を切らしながら大人しくなる。
ガフはカオの背中を撫でて更に落ち着かせる。
ガフは、カオが最初はパニックになるが、怒りと悲しみを爆発させたら落ち着くと思っていた。
一度落ち着いたらちゃんと話が聞ける、ガフはそう思っていたのだ。
腕の中でしゃっくりを上げながら静かになったカオに優しく話しかけた。
「カオ様、今まで黙っていてすいませんでした。アルフ様は、カオ様の事を恨んだり憎んだりなどしておりません。とても大切に思っております。今回の事もカオ様を傷つけるので、話すか悩んでおられました」
カオは黙って下を向いたままだったが、ガフはそのまま話し続ける。
「ただ、アルフ様も、ルキア殿も、大切なカオ様に嘘をつきたくない、そう思って話す決意をされたのです。今のカオ様なら大丈夫と確信して…」
ガフの(今の)という言葉にカオは顔を上げた。
そこだけガフが強調したからだ。
「カオ様には私がおります。ずっとカオ様のお傍に、離れなどしません」
ガフの言葉にまた涙が溢れる。
「でも…でも、私と一緒にいたら、ガフ殿も罪に問われるかもしれません。母上の企みが表沙汰になれば、私もフルーク兄上も降格処分になり、王子の称号も剥奪されるでしょう。そんな私といたら、ガフ殿の立場も危ないです。由緒ある伯爵家のご長男ですから…」
カオは続きの言葉を言うのを躊躇ったが、自分のせいでガフの出世に傷をつけたく無かった。
「ガフ殿、私は大丈夫ですから、私と…んっ! 」
別れて下さい、と言おうとした途中でガフにキスをされた。
驚いたカオにガフはもう一度キスをする。
「カオ様、私は先程お傍を離れませんと言ったばかりですよ? 」
「でも、ガフ殿のお父上はお許しにはならないでしょう」
カオの言葉にガフは微笑んだ。
「大丈夫ですよ、父上には既に話しております」
「えっ? 」
ガフの答えに驚いた。
「もちろん詳しくは話しておりませんが、カオ様の事を何があってもお守りすると、そのせいで家柄に傷がつくなら、離別をして欲しいと」
「そ、そんな! ダメです! ガフ殿はご長男ですよ? 」
「カオ様、私はカオ様の事をお慕いしていると気づいた時から、何があってもお守りすると決めていました。カオ様がどんな立場になろうが構いません、一生お傍にいます。剥奪されたなら、2人で畑でもやりましょう」
ガフの発言にカオは言葉も出ない。そんな覚悟までしていたとは思っていなかった。
しかし、今思うと自分の母親の事を全部知った上で、自分に告白をしてくれたガフにカオは、嬉しくて涙を流す。
「ガフ殿…私、悲しいです…悲しいけど、嬉しいです…」
カオの口からようやくプラスな言葉が出て、ガフは微笑んだ。
「よかったです。気持ち悪いと言われなくて」
珍しくおどけるガフにカオは笑顔になった。
「ガフ殿、全部話してくれてありがとうございます。兄上、ルキアにも感謝しています。危険な内容まで私に話して…」
「2人とも、それだけカオ様の事が大切に思っているのです。もちろん私もです。なので、離れるなんて二度と言わないで下さいね」
「ガフ殿…ありがとうございます」
2人はソファで色々話をした。今までの事、これからの事。
カオは素直に話を聞いてくれた。
夜もおそくなりカオは部屋に戻るとガフに伝える。
そんなカオをガフは引き止めた。
「カオ様、今日は私の部屋で良ければ泊まりませんか? おひとりで帰すのは心配でなりません」
ガフの言葉に驚いた。
全く下心はなく純粋に心配してってのは分かるが、突然の申し出に驚きが隠せない。
「ガ、ガフ殿、良いのですか? 」
「はい、私の狭いベッドでもよろしければ、ですが…」
「全然大丈夫です、ありがとうございます」
急な展開に動揺を隠しながらカオは答えた。
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