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第61話

「おい、何を見ている? 知らないのか? 王族を見続けたら罪に問われるんだぞ? 」 不機嫌そうにフルークが睨む。 「し、失礼しました」 また頭を下げて謝る。 「お前、確かファーストって名前の奴だよな? 」 自分の名前を言われて驚いた。まさか知っているとは思わなかった。 「は、はい、そうです」 「アルフと一緒にいるガフの友だろ? 優秀だと聞いてるぞ? 」 「そ、そんな…ありがとうございます! 」 「そんな優秀な奴がなんでこんな山で叫んでるんだ? 」 「そ、それは…少し嫌な事がありまして…フルーク様こそ、護衛もなくこんな所に? 」 普通は王子には護衛がついている。学校でも少し離れた場所に必ずいる。しかし今はフルークの後ろには誰もいない。 「ああ、私は女と逢い引きしていてな。流石にそんな時まで、見張られたら溜まったもんじゃないだろ? だから置いてきた」 「そんな、フルーク様に何かあっては大変ですよ? 」 ファーストの言葉にフルークは笑った。 何が面白いのかファーストはキョトンとした顔をする。 「お前、面白い奴だな? 」 楽しそうに笑っている。 「そ、そうですか? 何も面白い事は言ってないと思いますが…」 「そうゆう所だよ。普通、女と逢い引きしていたら、軽蔑した目でみるぞ? それを当たり前の様に私の心配をしている。お前は、私を軽蔑しないのか? 」 「そんな…軽蔑なんて…フルーク様は大変お美しいので、女が寄って来るのは当たり前かと…」 真面目に答えるファーストに益々面白いと笑う。 「ファースト、お前の事気に入ったぞ! もうすぐ仕事を見つける歳だろ? 何も見つからなかったら私の所へこい! 雇ってやるぞ? 」 普通なら見下されてると怒る所かもしれないが、今のファーストにはありがたい言葉だった。フルークの元で働ければ、宮殿内に住むことが出来る。 家を出れるならどこでもよかったし、フルークの魅力にファーストは既に囚われていた。 「ありがとうございます! お願いします! 」 躊躇なくお願いしてくるファーストに、面白いとまた言う。 「なら、今からお前は私の側近だ。最初の仕事に、私を無事に宮殿に送り届けろ! 」 面白そうに言うフルークに頭を下げそのまま宮殿に送り届けた。 __________________ 「その時から、私はフルーク様のお傍にいると決めておりました。他で働きたいなど思った事はありません。フルーク様? 」 ファーストの長い話の途中で、フルークは酔い潰れたのか眠っていた。 ファーストはフルークの寝顔を見て微笑む。 色々悪事を働いているが、どうしても傍を離れられない。 人を陥れようが殺そうが、一生ついていくと誓った。 「フルーク様、ここで寝ては風邪を引いてしまいます。ベッドに運ばせて頂きます」 寝ているがフルークに声をかけ、抱き上げる。 唯一触るのを許される時だ、以前ソファで寝てしまった時に、触れず布団をいっぱいかけたら次の日怒られてしまった。 体が痛くなるから寝てしまったらベッドに運ぶようにと、ファーストだけに許可された。ただそれだけだが、ファーストには嬉しかった。 フルークをそうっとベッドに降ろし、靴を脱がせる。 布団をかけ明かりを消すと、ファーストはフルークの寝顔を見つめる。 月明かりの僅かな明かりで見る寝顔はファーストにとって、幸せの一時だった。 自分だけに許されている時間。 今日は昔話をしてしまい、いつも以上に感情が込み上げる。 ダメだと分かっていても、触れたい欲求がファーストの中で渦巻く。 (ダメだ! 耐えろ! 今起きたら、全ておしまいだぞ! ) 心の声とは裏腹に、既にファーストはフルークの手を取っていた。 その手を自分の頬へ持っていき頬ずりをする。 この手がどんな悪い事をしていても愛おしくて仕方ない。 ファーストはフルークの手の甲にキスをした。 《すいません…二度と触れないので…これだけはお許しを…》 そう言うとフルークの手を離し布団の中に入れる。 更に見つめていたが、流石に長いと思い立ち上がり、フルークの寝室を出て行った。 __________________ 「アルフ様! 分かりましたよ! 」 ガフがアルフの部屋に入って来るなり言った。 「ガフ、何が分かったのだ? 」 「コーンが入手した、アスキロのルートです! 」 「本当か? 」 ガタッと椅子から立ち上がりガフの所に行く。 「はい、コーンが良く行く賭博の所で入手してる様です。裏ルートなので調べるのに苦戦しました」 書類をアルフに渡す。 その書類にはコーンがアスキロを購入した経緯が記入されていた。 「よし! このコーンに売った奴を捕まえて、証人として連れてこい。絶対アリーン様にバレない様にしろよ? 」 「かしこまりました」 その時バタバタと音をたてて部屋に入って来た人物がいた。 「アルフ様! アルフ様! 大変です! 」 突然入ってきた男に眉をひそめる。その男は酷く焦り、扉を叩くこともせず飛び込んできた。 後ろにはアルフの護衛の者達が静止しようと一緒に入ってきていた。 アルフは護衛の者達に、「大丈夫だ」と伝える。 「お前は父上の護衛官ではないか? どうした? 」 「アルフ様! 陛下がお倒れになりました! 直ぐに来て下さい! 」 「なんだと? 父上が? 何があったのだ? 」 「分かりません! 突然政務中にお倒れになりました! 急いで来て下さい! 」 「分かった! ガフ、後はたのむぞ! 」 「かしこまりました! 」 アルフは、ガフに後は任せて父親の元へ急ぐ。

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