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第65話

「クソッ! なんだ今日の母上は? なんでオームが国王なんだ? 」 フルークは今日の出来事に腹を立て、酒を飲んでいた。 横にはファーストがいる。他のメイド、執事達は帰らせていた。 フルークの暴言がこれ以上噂になれば立場が悪くなると、ファーストが思い帰らせた。 「おい、ファースト! どうゆう事か調べたのか? 」 「はい、アリーン様周辺を調べましたが、オーム様の事はほとんど知られていません。目撃しなければ、私も知らなかったでしょう」 オームに薬を横流しにしているのに気づき、一度後をつけた事があった。 「母上は、一体何をしようとしてるんだ? 本当にオームに恋をしてるのか? 」 「アリーン様は、フルーク様に心配させまいと、黙って行動されてるのでは? 」 「そう言えばいいだろ? 嘘をつくことくらい容易い」 ファーストは、アリーンがフルークの怒りっぽい特徴を理解していて黙ってると推測していた。 フルークはそう言っているがカッとなると嘘をつく事など忘れてしまう。 それをアリーンもファーストも理解している。 「今は黙って静観するしかないのでは? オーム様の政権も長くは続かないでしょう」 体調が良いと言っても長く療養していた人物が、何年も続くと思えない。 「そうかもしれんが、自分の知らない所で話が進んでるのが不愉快だ! 」 飲み干した器にファーストが酒をつぐ。 それを一気に飲み干し、また要求する。 「フルーク様、本日はこれで…」 「お前も俺に命令するのか! もうよい、下がれ! 自分でやる! 」 そう言って手を振り払った。 「どうか、他の事で気を紛らわして下さい」 ファーストは酒を取り上げ頭を下げる。 「他の事とは、なんだ? 女を抱くとかか? お前が女を連れて来てくれるのか? 」 「フルーク様が、そう仰るなら私が誰か連れてきます」 ファーストが頭を下げて出て行こうとする。 「まて、誰も本気で言ってない! お前はなんでも本気にするな! 俺が死ねと言えば死ぬのか? 」 イライラしながらファーストに当たる。 「フルーク様がそう仰るなら、喜んで」 頭を下げて言うファーストに呆れた顔をする。 何を言っても感情を外に出さない。この男は何を考えてるんだ? 「本当は俺の傍にいるのが嫌なんだろ? どうして、感情を外に出さないんだ! 裏で笑ってるんだろ? 」 「フルーク様…とんでもございません。私は、何があってもフルーク様のお傍にいます」 「うるさい! もう誰も信用出来るか! 母上にさえ裏切られたんだぞ? お前も俺を裏切るんだ! 」 フルークはイライラから、テーブルにあった器をファーストに投げつけた。 ファーストが避けると思ったが、ファーストは立ったまま避けない。 そのまま器はファーストの額に当たり、割れて床に散らばる。 ファーストの額が切れ血が滴りだした。 「お前…なんで避けないんだ? 」 「それでフルーク様の機嫌が直るのでしたら、喜んで受け止めます」 ファーストの発言に怒るのも馬鹿らしくなり、ソファにストンと座った。 「はぁ…お前と話してるとイライラしてるのも馬鹿らしくなってきた。とりあえず母上の様子を見よう」 「そうですね、何かあればご報告します」 頭を下げ部屋を出て行こうとした。 「まて、ここに座れ」 「はっ? 」 突然のフルークの発言に珍しく声が出る。 フルークの横に座る事などないからだ。 「いいから座れ! 」 命令されれば従うしかない。 静かにフルーク横に座ると、フルークはテーブルの上の濡れた手拭きを取り、ファーストの額に手を伸ばした。 ファーストがとっさに後ろにずれる。 「なんで、逃げるんだ? 」 「何をされるのでか? 」 「見たらわかるだろ? お前の傷口をふくんだ! 」 ぶっきらぼうに言うと、大人しくしろと言いファーストの額の傷口を抑える。 ファーストはフルークの行動に顔は出さないが、内心かなり動揺していた。 フルークが、こんな事を今までした事が無かったからだ。 ファーストに労りを見せる事はあっても、直接自ら動く事はない。 自分がつけたキズだからなのか?と戸惑いながら、顔に出さないようにしていた。 大人しく従うファーストにフルークは満足そうな顔をする。 自らガーゼと包帯を持ってきて、ファーストの頭を巻いた。 「よし、これでいい。どうだ? まだ痛いか? 」 「大丈夫です。ありがとうございます」 フルークに傷つけられたが、手当をしてもらったのでお礼を言う。 「では、フルーク様。そろそろお休みになられてください」 「ああ、分かった。ファースト、ベッドに連れてけ」 「!!? 」 またとんでも無いことを言い出した。 ファーストは言葉もなく驚く。ソファで眠ってしまった時は運んでいたが、今は起きている。 「フルーク様、ご自身でお願いします」 「酔っ払って歩くのがダルい。連れて行け」 「そ、それは…」 少し動揺が顔に出た。フルークはそれに目ざとく気づく。 「お前、私を抱くことに抵抗があるのか? 」 「とんでもございません! 」 「なら、早くしろ! 」 フルークのワガママにファーストは動揺しながらもフルークに近づき、そっと抱き上げる。 「よし、それでよい。いつも女をベッドに抱いて連れて行くが、抱かれるのも悪くないな楽でいい。これからは毎日頼むとするか」 酔っているせいかとんでも無いことを言い出した。 これが毎日ならファーストは我慢出来るか自信が無かった。 しかし耐えなければフルークに嫌われてしまう。 「かしこまりました」 ファーストは冷静を装いフルークをベッドに連れていった。

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