65 / 88
第65話
「クソッ! なんだ今日の母上は? なんでオームが国王なんだ? 」
フルークは今日の出来事に腹を立て、酒を飲んでいた。
横にはファーストがいる。他のメイド、執事達は帰らせていた。
フルークの暴言がこれ以上噂になれば立場が悪くなると、ファーストが思い帰らせた。
「おい、ファースト! どうゆう事か調べたのか? 」
「はい、アリーン様周辺を調べましたが、オーム様の事はほとんど知られていません。目撃しなければ、私も知らなかったでしょう」
オームに薬を横流しにしているのに気づき、一度後をつけた事があった。
「母上は、一体何をしようとしてるんだ? 本当にオームに恋をしてるのか? 」
「アリーン様は、フルーク様に心配させまいと、黙って行動されてるのでは? 」
「そう言えばいいだろ? 嘘をつくことくらい容易い」
ファーストは、アリーンがフルークの怒りっぽい特徴を理解していて黙ってると推測していた。
フルークはそう言っているがカッとなると嘘をつく事など忘れてしまう。
それをアリーンもファーストも理解している。
「今は黙って静観するしかないのでは? オーム様の政権も長くは続かないでしょう」
体調が良いと言っても長く療養していた人物が、何年も続くと思えない。
「そうかもしれんが、自分の知らない所で話が進んでるのが不愉快だ! 」
飲み干した器にファーストが酒をつぐ。
それを一気に飲み干し、また要求する。
「フルーク様、本日はこれで…」
「お前も俺に命令するのか! もうよい、下がれ! 自分でやる! 」
そう言って手を振り払った。
「どうか、他の事で気を紛らわして下さい」
ファーストは酒を取り上げ頭を下げる。
「他の事とは、なんだ? 女を抱くとかか? お前が女を連れて来てくれるのか? 」
「フルーク様が、そう仰るなら私が誰か連れてきます」
ファーストが頭を下げて出て行こうとする。
「まて、誰も本気で言ってない! お前はなんでも本気にするな! 俺が死ねと言えば死ぬのか? 」
イライラしながらファーストに当たる。
「フルーク様がそう仰るなら、喜んで」
頭を下げて言うファーストに呆れた顔をする。
何を言っても感情を外に出さない。この男は何を考えてるんだ?
「本当は俺の傍にいるのが嫌なんだろ? どうして、感情を外に出さないんだ! 裏で笑ってるんだろ? 」
「フルーク様…とんでもございません。私は、何があってもフルーク様のお傍にいます」
「うるさい! もう誰も信用出来るか! 母上にさえ裏切られたんだぞ? お前も俺を裏切るんだ! 」
フルークはイライラから、テーブルにあった器をファーストに投げつけた。
ファーストが避けると思ったが、ファーストは立ったまま避けない。
そのまま器はファーストの額に当たり、割れて床に散らばる。
ファーストの額が切れ血が滴りだした。
「お前…なんで避けないんだ? 」
「それでフルーク様の機嫌が直るのでしたら、喜んで受け止めます」
ファーストの発言に怒るのも馬鹿らしくなり、ソファにストンと座った。
「はぁ…お前と話してるとイライラしてるのも馬鹿らしくなってきた。とりあえず母上の様子を見よう」
「そうですね、何かあればご報告します」
頭を下げ部屋を出て行こうとした。
「まて、ここに座れ」
「はっ? 」
突然のフルークの発言に珍しく声が出る。
フルークの横に座る事などないからだ。
「いいから座れ! 」
命令されれば従うしかない。
静かにフルーク横に座ると、フルークはテーブルの上の濡れた手拭きを取り、ファーストの額に手を伸ばした。
ファーストがとっさに後ろにずれる。
「なんで、逃げるんだ? 」
「何をされるのでか? 」
「見たらわかるだろ? お前の傷口をふくんだ! 」
ぶっきらぼうに言うと、大人しくしろと言いファーストの額の傷口を抑える。
ファーストはフルークの行動に顔は出さないが、内心かなり動揺していた。
フルークが、こんな事を今までした事が無かったからだ。
ファーストに労りを見せる事はあっても、直接自ら動く事はない。
自分がつけたキズだからなのか?と戸惑いながら、顔に出さないようにしていた。
大人しく従うファーストにフルークは満足そうな顔をする。
自らガーゼと包帯を持ってきて、ファーストの頭を巻いた。
「よし、これでいい。どうだ? まだ痛いか? 」
「大丈夫です。ありがとうございます」
フルークに傷つけられたが、手当をしてもらったのでお礼を言う。
「では、フルーク様。そろそろお休みになられてください」
「ああ、分かった。ファースト、ベッドに連れてけ」
「!!? 」
またとんでも無いことを言い出した。
ファーストは言葉もなく驚く。ソファで眠ってしまった時は運んでいたが、今は起きている。
「フルーク様、ご自身でお願いします」
「酔っ払って歩くのがダルい。連れて行け」
「そ、それは…」
少し動揺が顔に出た。フルークはそれに目ざとく気づく。
「お前、私を抱くことに抵抗があるのか? 」
「とんでもございません! 」
「なら、早くしろ! 」
フルークのワガママにファーストは動揺しながらもフルークに近づき、そっと抱き上げる。
「よし、それでよい。いつも女をベッドに抱いて連れて行くが、抱かれるのも悪くないな楽でいい。これからは毎日頼むとするか」
酔っているせいかとんでも無いことを言い出した。
これが毎日ならファーストは我慢出来るか自信が無かった。
しかし耐えなければフルークに嫌われてしまう。
「かしこまりました」
ファーストは冷静を装いフルークをベッドに連れていった。
ともだちにシェアしよう!