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第70話
「アルフ様! アルフ様! 」
朝早く部屋の扉を叩く者がいた。
ドンドンと激しく叩いている。
「何事だ! 」
アルフが顔を出した。後ろにはルキアがいる。
扉を叩いていた執事は頭を下げ急いで言った。
「アルフ様、大変です! オーム様が! 」
「兄上がどうした? 」
「とりあえず来てください! 」
執事に言われアルフとルキアは急いでオームの部屋に向かう。
そこにはヨリムを初め沢山の侍医がいた。
「ヨリム、何があったのだ? 」
アルフが声をかける。
「アルフ様…」
ヨリムが横に避けると横たわっているオームが目に入った。
首には紐みたいな物が巻き付けている。
「兄上…まさか…ヨリム? 」
「朝、執事が起こしに行ったら自死をしていたようで、あそこから首を…」
上を向くと紐を切った後があった。
「自死で間違いないのか? 」
「わかりません。ただ、遺書なる物がありその可能性が高いと思われているだけで…解剖してみないと。ただ、国王陛下を解剖する事は前例がないので…これ以上調べられるか…」
「その遺書はどこにあるんだ? 」
「先程国防大臣が持って行きました」
「おかしい、兄上が自死をする理由がない。ヨリム、調べられないか? 」
「暫くは宮殿内で保管されると思いますので、その間に何とか出来れば…」
アルフとヨリムが話している所にアリーンと国防大臣が来た。
「アルフ王子、ちょっと来てください」
「なんの用事だ? 今忙しい! 」
「証拠を消すことにですか? 」
アリーンの言葉にアルフは詰め寄る。
「なんの事ですか? アリーン様? 」
「今更とぼけるおつもりですか? 陛下の遺書に書いてあったわ。あなたに命令されたと」
「なんだと? それはどうゆう意味ですか? 」
「国防大臣、読んで差し上げて! 」
「は、はい。こちらはオーム国王陛下の遺書になります」
国防大臣は咳払いをして遺書を広げ読み出した。
「私はアルフにそそのかされて、父上に薬を盛った。国王になりたかった心の闇をつかれたのだ。だが良心の呵責に耐えきれない。そそのかされたといえ、父上に薬を盛った事を後悔している。死を持って償うことにする。この先も我が一族が国王になることは許されない」
アルフは読み上げている途中から怒りが顔に現れていた。
今にも爆発しそうだ。ルキアがアルフの腕を押さえている。そのおかげで国防大臣を殴らなくて済んでいた。
読み上げると周りがざわつきだした。
「まさか…」
「アルフ様が? 」
「そんな訳ないだろ? 」
「でも、今回国王にならなかったし…」
ヨリムに睨まれ皆黙る。
アリーンが強かな笑みを浮かべている。
「アルフ王子、ここまで書かれているのよ? 罪を認めたら? 」
「アリーン様、その遺書が兄上の物となぜわかるのですか? 」
「それはここに刻印が押されてるからよ。陛下の物はまだ保管されてるから王子の時の物ね」
「なるほど。それなら兄上が書いた物かもしれませんが、私が兄上をそそのかした証拠はないですよね? 」
「この遺書が立派な証拠じゃないの! 」
「それはどうでしょう? 私ではない誰かがそそのかしたとも言えませんか? 例えば…兄上と関係があった人とか? 」
「そんな面倒な事はしないでしょ? オーム陛下を死に追いやったのはアルフ王子よ! 重罪だわ! 誰か! 」
アリーンが叫ぶと収容所の兵士達が来た。
「随分用意周到ですね? まるで兄上が今日亡くなるのが分かってたかの様だ」
「戯言は聞かないわ! アルフ王子を拘束してちょうだい! 」
兵士達がアルフの腕を取ろうとした。アルフはそれを払いアリーンにニッコリと微笑む。
「私は逃げも隠れもしませんよ。誰かと違ってね」
「なんですって? 」
アリーンはアルフが冷静でイライラしている。もっと取り乱すと予想していたからだ。
アルフはルキアの手を握る。
「ルキア、すぐ戻るからな。ガフに全部伝えてくれ」
「分かりました! 」
ルキアは涙を堪え力強く頷いた。
「ヨリム、ルキアを任せたぞ! 」
「かしこまりました! この命に変えても! 」
「さて行きますか? 収容所にはベッドはあるのか? 」
呑気に聞きながら兵士達と共にその場を後にする。
アリーンはその姿を見て忌々しそうに睨んだ。
「ふん、負け惜しみばかり。アルフ王子の件は次の会議にかけて処分を決定します! その間国民達にむやみに話さないように! 話した者には罰を与えます! 」
アリーンはそこにいる侍医や執事に言うと国防大臣と帰って行った。
ルキアは心配そうにアルフが去った後を見つめ続けた。
自分が全然役に立てなくて悔しさが込み上げてくる。
ルキアは泣きたかったがアルフの方が辛いと堪える。
(クソッ! 絶対、アリーンがやった証拠を見つけてやる! アルフ様を助けないと! )
「ルキア、とりあえずガフ殿にお伝えしろ。 今、色々調べているはずだ。今日中には戻るだろう」
「分かりました! 」
《私は陛下にお話してくる。くれぐれも気をつけて行動しろよ? お前に何かあったらアルフ様に会わせる顔がない》
《はい、ヨリムさんも気をつけて…》
ルキアはその場を後にし急いで部屋に戻る。
アルフの部屋に戻ると、サニー王女、チヒロ、カオが待っていた。
「皆さん、来ていたのですか? 」
「ええ、お兄様が捕まったと聞き、話を聞きたくて! ルキア、お兄様は大丈夫なの? 」
サニーが泣きそうな顔で聞いてくる。
(そうだ、悲しいのは俺だけじゃない! みんなの為にもアルフ様を助けなきゃ! )
「サニー様、アルフ様は大丈夫です。後は任せたと仰ってくれました。アルフ様を助ける方法を考えましょう! 」
ルキアの言葉にサニーも頷く。
「そうね。ごめんなさい、あなたもとても辛いのに…」
「大丈夫です、ガフさんが戻るまで考えましょう」
ルキアの言葉にみんなが頷く。
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