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第73話
「兄上? カオ様のお兄様ですか? 」
「はい、第三王子のアルフ兄上です」
ローレンは訳が分からなかったが、カオが土下座したままなのがいたたまれない。
「カオ様、どうゆう事かわからないので、とにかく座って説明をして下さい。このままでは私が困ってしまいます」
それでもカオは土下座をしたまま言葉を続ける。
「ですが、私はあなたを騙してここに来て頂きました。あなたの心を利用したのです。全てお話しますが、ここでの事だけは黙ってて欲しいのです。身勝手なお願いなのは分かっています」
「騙すとは? お手紙の内容が事実とは違うのですか? 」
手紙にはローレンの事が気になっている。もう一度会って話がしたい。と書いていた。
「はい。ローレン王女、申し訳ございません。私には好きな方がいます。あなたと婚約は出来ません」
カオは土下座をしたまま1番言いづらい事をローレンに伝えた。
ローレンは、カオの言葉に力が抜けソファにストンと座る。
「そうでしたの…確かに、少し不思議に思ったのです。今までのお手紙と内容が違ったので…それでも、私は嬉しくて…でも、私を連れて来る為なんですね? 」
「はい、その通りです」
ローレンはしばらく黙ったままカオを見ていたが、ふぅーと長い息を吐きカオに声をかけた。
「カオ王子、話は分かりました。どうか、お座りになって下さい。詳しくお話して下さい」
「ローレン王女、よろしいのですか? 」
「そこまでのご事情がおありなんですよね? もちろんショックはありますが、カオ王子を恨むつもりはございません」
「すいません…」
カオは立ち上がりソファに座った。
今回何故ローレンを呼ぶ事になったかを、説明した。
ルキアが異世界から来た事は言わず、自分の母親と王妃の事、アルフが今拘束されている事、この部屋に証拠があるかもしれない事などを、隠さずローレンに話した。
カオの話を聞いていたローレンは、驚きが隠せない。
アデウス国がこんな状況になっているとは知らなかった。
「という次第で来て頂いたのです。母上のお気に入りのローレン王女とでしたら、疑われないと思いまして…」
「そうでしたの…それはとても大変でしたね。分かりました。私の恋心など大した事ないですわ。ご協力致します」
少しお茶目にローレンが言った。
「すいません…あなたまで巻き込んで…」
「カオ王子、先に1つだけ教えて下さい」
「はい」
「カオ王子のお好きな方はどんな方なんですか? 」
「えっ? 」
急にふられカオは赤くなる。それを見たローレンは自分に全く脈がないのを実感した。
好きな人を思い出し顔が赤くなるカオはとても可愛かった。自分ではそんな顔にする事は出来ないと分かったのだ。
「カオ王子をそんな風にするなんて、とても素晴らしい方なのですね? どこかの王女様ですか? 」
ローレンの言葉にカオは更に赤くなりながら説明した。
「えっと…実は、アルフ兄上の側近のガフ殿という方なんです」
「えっ? アルフ王子の側近? 」
素っ頓狂な声が出た。
ローレンはアルフ王子を社交界で見かけたが、隣には男の人がいたはず。
「もしかして、カオ王子のお好きな方って男の人なんですか? 」
「は、はい…」
「そうだったのですね? そうですか…」
しばらく驚きで声も出なかったが、カオが正直に話してくれた事に感謝をした。
「カオ王子、正直に話してくれてありがとうございます。約束通りご協力しますわ 。その器を一緒に探せばよろしいですか? 」
なんだか吹っ切れて笑顔になる。
「あ、いえ、ローレン王女は私と一緒にお話をしていてくだされば…その間に2人が探しますので」
「2人とは…? 」
『私達です、ローレン王女』
「きゃ! 」
突然後ろから声がしびっくりして飛び上がる。
振り向くとルキアとチヒロが立っていた。
「えっ? いつの間に? どうゆう事なの? 」
「驚かしてすいません。ローレン王女、こちらは兄上の侍医ルキアと、サニー王女の侍医チヒロです」
「は、はあ…あら? あなた、社交界でアルフ王子と踊っていた方ね? 男の人だったのね」
「はい」
次から次へと色々出てきてローレンは困惑が隠せない。
「はあ…よく分かりませんが、分かりました。私は大人しくしてるだけでお役にたつのですね? 」
「はい、ご無理を言ってすいません。私も医学はわからないので、こちらの2人に任せた方が早いと思います。ルキア、急いでくれ! 」
「はい。チヒロさん、行こ! 」
「分かってるわよ」
ルキアとチヒロはアリーンの寝室にはいる。
至る所に棚がありどれも鍵がかかっている。
「大事なのをしまいそうな場所は…」
「アリーン様のメイドから、絶対掃除しなくていい棚があるって聞いたわ。きっとその中にあるのよ」
ルキアとチヒロは跡が残らないように慎重に探していく。
その間、ソファでカオがローレンにガフとの馴れ初めを追求されていた。
吹っ切れた様に明るく接してくれるローレンに感謝しつつも、根掘り葉掘り聞かれるから早くルキア達に戻ってきて欲しかった。
「ルキア、きっとこれだわ! 」
チヒロがルキアを呼ぶ。急いでそこに行くと、小さな棚があった。
他の棚より頑丈な南京錠がついていて容易く開けられそうもない。
「この鍵は開けるのは難しそうだな…鍵はどこかにあるかな? 」
周りを探していたが中々見つからない。
声を聞いたカオとローレンが入ってきた。
「ルキア、分かったのか? 」
「カオ様、多分この棚だと思うのですが鍵が見当たらなくて…」
「鍵か…」
ローレンが思い出した様に口を開いた。
「あの…」
「なんですか? ローレン王女? 」
「前にアリーン様にお会いした時、ドレスの胸元から、ネックレスが出たのですが、そのネックレスの先に鍵らしき物がありました」
「本当ですか? 」
「はい。外に出さず閉まっていたので、不思議に思い覚えていたのです…」
ルキアとカオは顔を見合わせた。アリーンが、肌身離さず持っているとは想定していなかった。
「そうなると、壊すしかないのか…」
「でも、壊すと直ぐにバレてしまいます。ここに居たお2人に疑いがかかります。今回は見送って、鍵を確保する方法を考えないと…」
ルキアはアルフを今すぐ助けられないと落ち込んだ。
その様子を眺めていた、ローレンは再度口を開いた。
「あの…鍵がなくてもこの扉が開けば良いのですよね? それでしたら私出来ますよ」
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