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第74話
『えっ? 』
みんなが驚いてローレンを見る。
ルキアが詰め寄り再度聞いた。
「ローレン王女、この南京錠を開けられるのですか?」
「は、はい…」
ルキアの気迫に少し後ずさる。
「す、すいません。怖がらすつもりは…アルフ様の事を考えるとつい焦ってしまい…」
ルキアの言葉にローレンは微笑む。
「ルキアさんはアルフ王子が大切なのですね? 」
「大切どころか2人は愛し合ってますよ? ルキアもカオ様も、男ばっか! 私達、女が余って困ってます! 」
チヒロが不貞腐れ気味に嫌味を言った。
それを聞いたローレン王女が楽しそうに笑う。
ルキアはチヒロなりの場をほぐそうとしてくれた事に感謝をした。
(俺、焦ってたな。わざわざ来てくれた、ローレン王女にも詰め寄って…こんなんじゃダメだ! もっとシャンとしないと! )
顔をパンパンと叩き自分を落ち着かせた。
「失礼しました。ローレン王女、教えて下さい」
「教えるより実際やって見せますわ」
ローレンはそう言うと、リビングに戻りさっきまで飲んでいた紅茶を持ってきた。
その紅茶に手をかざす。
すると紅茶がポコポコと動きだした。
そのまま手を上にあげると、器に入っていた紅茶が丸くなり宙に浮いている。
「こ、これは…」
ルキア達は驚いた。液体が個体になり零れることも無くふわふわ浮いている。
ローレンはニコと微笑んでその球体をルキア達の前に持ってきた。
「実は、私は液体を個体に出来る魔法が使えるんです。個体と言っても硬くなくブヨブヨしていて形を変えられるんです。もちろん硬くも出来ますが」
そう言うと紅茶の球体をハートや星の形にして見せた。
「す、凄い…こんな魔法もあるんだ…」
ローレンはそのまま球体を南京錠の鍵穴に滑り込ませる。
中で鍵の形に合わせるともう一度力を込めた。
「さっ、ルキアさん。回して見てください」
ローレンに言われてルキアは触った。
「硬くなってる…」
驚きながらも紅茶の物体をゆっくり回す。
ガチャと大きな音がして、南京錠が外れた。
「やった! ローレン王女、凄い! 」
チヒロがローレンに抱きついて喜んだ。
「本当だ! ローレン王女、ありがとうございます! 」
みんなに感謝され嬉しそうなローレン。
「よかったですわ。ルキアさん、中を見てください」
ルキアは頷いてゆっくり扉を開けた。
その中には高そうなアクセサリーの他にシルクの布に包まれている物があった。
ルキアはそっと取り包みを剥がす。
そこには国王の刻印が刻まれた器があった。
「こ、これだ! 間違いありません」
ルキアは思わず手がふるえる。
ようやくここにたどり着けた。これを調べれば何か出てくるかもしれない。
ルキアは器の底が変色している事に気づいた。
「チヒロさん! これを見てください! 」
「なに? あっ! これってもしかして…」
「ルキア、何か分かったのか? 」
「カオ様、もしかしてですけど、この底の変色毒による物かもしれません」
「本当かい? 」
「確定ではないですが…金の器だと、変色してしまう毒もあるので…とりあえず、持ち帰って調べましょう! 」
ルキアは扉を閉め南京錠をしっかりとかける。
その時、チヒロが耳をピクッとした。
「ちょっと待って! アリーン様が戻って来るわ! 」
「えっ? なんでわかるの? 」
ルキアは耳をすませたが何も聞こえない。
「私は遠くの音が人より早く聞こえるの。魔法かよくわからないし、なんの役にも立たないと思っていたけど、役にたったわね」
「関心してる場合じゃないよ! あとどれ位? 」
「そうね、ゆっくり歩いているから1分位だけど、話によると声をかけず入って来る気よ! カオ様とローレン王女の様子を見るために! 急いでリビングに戻りましょ! 」
慌ててリビングに戻ろうとした時、ローレンがアリーンの寝室の布団を少し乱した。
「ローレン王女? 」
カオが驚いて尋ねる。
「だって私達逢い引きをしている予定なんですよね? それなら証拠を残さないと! 」
大胆な行動のローレンに驚く。
「ローレン王女、ナイスアイデア! じゃあ私も少し失礼して」
チヒロが急いでローレンの髪を少し乱し、ドレスのリボンを雑に結び直す。
「さっ、2人はリビングのソファで抱き合ってて! ルキア、ソファの後ろに隠れるわよ! 」
ルキアとチヒロがソファの後ろに隠れた直後、扉が静かに開いた。
「あっ! 」
アリーンが開けたと共に驚いた声を出した。
アリーンの目にはソファで抱き合ってキスをしようとしているカオとローレンが見えた。
「きゃ! 」
ローレンがアリーンに見られ恥ずかしそうにカオを突き飛ばした。
「母上、ノックもせずに入って来ないで下さい」
ローレンに突き飛ばされて、不貞腐れてアリーンに文句を言う。
その間にルキアは力を入れ姿を消し、チヒロとアリーンの横を通り扉の外に出た。
「ご、ごめんなさいね、自分の部屋だから忘れてたわ」
白々しく謝るが内心は喜んでいた。
ローレンの髪やドレスが乱れているのを目ざとく気づいたのだ。
ローレンの恥じらいながらも、カオを虜にする姿に満足気な笑みを浮かべる。
シュリム国はアデウス国より水が豊かで、作物が豊富に取れる。
これを気に婚約をすすめ同盟国にし、アデウス国に輸入の量を増やそうと策略していた。
「ローレン王女、失礼したわ。私も戻ったから、ゆっくり話しましょ? 」
「そ、そんな…私、これで帰ります! カオ王子、またお会いしましょう! 」
「ローレン王女! 」
カオの呼び止めにも聞かず、ローレンは恥ずかしそうに頭を下げ部屋を出ていった。
「母上、もう少し遅くてもよかったのでは? 」
「そ、そうね。次からはそうするわ」
「では、私もローレン王女に手紙を書きますので、失礼します」
アリーンはカオが帰ると大臣を呼んだ。
「明日にでも、アルフの裁判をするわ。その時に、フルークを国王にするよう、合わせといて」
「かしこまりました」
アリーンは自分の計画通りに進んでいる事に満足していた。
フルークを国王にし、近いうちにカオと交代させる。
自分がずっと政権を握れるストーリーだ。
「ようやく、王妃一族を潰せるわ! 」
そう言うと、テーブルに残されたローレンの紅茶を一口飲む。
「あら、美味しいわね」
南京錠を開けた紅茶とは知らず…
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