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第76話
フルークはアリーンの元を訪ねていた。
アリーンに呼ばれたからだ。
「母上、お呼びですか? 」
今まで散々無視をされていたが突然の呼び出し。
オームの死とアルフの投獄の話だとは推測出来た。
部屋に入るとアリーンが上機嫌でワインを飲んでいた。
「母上、楽しそうですね? 」
フルークも一緒にワインを飲みながら尋ねた。
「そうよ、フルーク! ようやくあなたが国王になる時が来たのよ! 私の時代がやってきたわ! 」
アリーンの興奮とは逆にフルークは冷静になっていた。
散々無視され計画のうちだと言われても納得がいかない。
「母上、俺を国王にしてくれるのですね? なぜ、今まで計画を教えてくれなかったのですか? 俺も手伝えたのに」
「あら? フルーク、拗ねてるの? 国王になろう者が子供みたいよ? あなたを巻き込みたく無かったのよ」
「ですが、今までは一緒にやってきました。オームの事も先に言っといてくれれば壇上で恥もかかなかった! 」
あの時の事を思い出すと今でも腹が立つ。計画のうちだとはいえ、人前で恥をかかされたのはフルークにとって屈辱だった。
「知らないからこそみんなが信じたをんじゃないの。 あなたの演技は白々しくてすぐバレるのよ。だから知らさなかったの。結果的にアルフに罪をきせられたからよかったでしょ? 」
フルークの屈辱など大したことないとアリーンはあしらう。
その態度にフルークは覚めていくのを覚えた。
自分がどんなに母親の言う通りにしてもただの駒の様に思えてきた。
自分が国王になってもアリーンに政権を握られ、思いどおりには出来ない。
他にもフルークには気になる事があった。
「母上、俺が国王になるとカオはどうなるんですか? 本当はカオを国王にしたいと言う噂は本当ですか? 」
フルークの言葉に笑みが消え鋭い表情になった。
「フルーク、その噂をどこで聞いたの? そんなのデタラメよ。誰かがあなたを憎んでわざと流したのよ! 」
実はカオがメイドや執事に噂を広めるよう伝えていた。
兄のプライドが傷つくのが分かっていたからだ。
フルークは母親の微かな動揺を見逃さなかった。
(どうやら、本当らしいな…。俺の為とか言いながら結局自分の為じゃないか! 子供までも自分の為に蹴り落とす。こんな人が母親だったとは…)
「そうでしたか、どこから流れたかは分かりませんが見つけたらタダじゃ置かない! 」
「そうよ、そんな噂は信じなくていいの。あなたは私の言う通りにしなさい。そうすれば国王になれる。この国を自由に出来るのよ! 」
「そうですね、母上についていきます」
フルークはワインを上げアリーンと乾杯をした。
部屋に戻るとファーストが待っていた。
「アリーン様のお話はなんだったのですか? 」
フルークは、ファーストをマジマジと見た。
この男はどこまでも自分を第一に考えてくれる。当たり前だが他の者はフルークの前では、フルーク1番と言いながら陰で悪口を言っている。
それはそれで構わなかった。見つけて罪に問えばいいだけだ。
味方など母親だけでよかった。
しかし、その母親にも利用されているとわかりフルークは突然孤独を感じた。
「どうされましたか? 何か不快な事でもいわれたのですか? 」
フルークが黙っていたので、心配そうに質問してきた。
「違う、明日アルフの裁判をし俺を国王にすると言われた」
「それはおめでとうございます」
「本当にそう思うか? 」
「はい、フルーク様は前から国王になりたいと仰ってましたし、フルーク様にはその器がございます」
いつもの様にフルークを褒める。
「そうだな、国王になりたかった。確かになりたいと思っていた前までは…」
「フルーク様? 」
「ファースト、俺は今まで母上に従ってきた。なんの疑いもしないで。純粋に俺を国王にしたいんだと思ってきた。しかし、最近の母上を見ているとそんな気がしなくなった。自分の地位をあげることに焦点を当ててる気がする…俺の事など二の次だ。むしろ疎ましく思っている」
「そんな事ないですよ 」
「お前はいつも俺を肯定するな。噂は聞いてないのか? 」
「カオ様のですか? 聞いた事はありますがフルーク様の方が凄いので気にした事ないです」
ファーストの言葉にフルークは笑ってしまった。
こんなに自分の事を思ってくれる奴がいたのに、今まで無視して自分勝手にしていた。
それでもファーストは傍にいてくれたのだ。
思えば最初からそうだった。
他の女と逢い引きして自分を綺麗だの、夜は危ないだのと言っていた。
犯罪に加担した時も黙ってついてきた。
軽蔑する事など1度もした事がない。
それがファーストだ。
フルークは、少し前の夜を思い出してみた。
酔っていて記憶は曖昧で夢か現実か分からなかったが、今は現実だと確信した。
この男は自分の事を心の奥底から愛してる。
それが分かってもファーストの事を気持ち悪いとは思えなかった。
むしろしっくりくる。
愛でもなければついてくる理由がない。
「フルーク様? お疲れなら、お休みになられますか? 」
また黙るフルークにファーストが声をかける。
フルークは、黙ったままファーストに抱きついた。
「フ、フルーク様!? 」
突然抱きつかれ動揺するファーストを再度強く抱きつく。
ファーストはなぜ抱きつかれたのかさっぱり分からず、固まってしまう。
この男はこんなに大きいのかとフルークは初めて気づく。
「ファースト、俺を抱き締めろ」
「し、しかし…」
「いいから、命令だ! 」
フルークに言われ訳が分からずそっと抱き締めた。
自分の願望が変な形で叶い戸惑う。
いつも冷静沈着なファーストが狼狽える姿を見るのは楽しかった。
フルークは更に力強く抱きつく。お互いの腰と腰が当たる。
ファーストは自分のが反応しない様に必死で耐えていたが、フルークの強い抱きつきについ反応してしまった。
フルークはそれに気づき内心ニヤリと喜ぶ。
やはり自分を好きなのは間違いないと。
フルークはファーストを離し顔を見る。
珍しく目を逸らすファーストは新鮮だった。
こいつを困らせるのは楽しいと思うフルーク。
背を少し伸ばしファーストの唇にキスをした。
柔らかいフルークの唇が触れる。ファーストは全身が痺れる感覚がした。
数秒でフルークは離れ満足そうな顔をする。
「じゃあ、私は寝るぞ。お前も下がれ」
そう言うと寝室に入って行った。一体何が起こったのか分からないファーストは、しばらくそのまま固まっていた。
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