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第85話
「どうした! ルキアがいたのか? 」
「そ、それが…一度診療所に戻りルキアの部屋を覗いて見たのですが…」
ヨリムが言葉を濁す。
「なんだ? 早く言え! 」
イライラしながらアルフが詰め寄る。
「アルフ様、抑えて下さい」
ガフが止める。
「実は、ルキアの部屋の荷物が空っぽになっていて…」
「なんだと? 本当か? 」
「はい、まるで最初から誰も居なかった様な…アルフ様!? 」
ヨリムの話の途中でアルフはソファに座りこんでしまう。
「アルフ様、大丈夫ですか? 」
「兄上! 」
「大丈夫だ…そうか…。ヨリム、この事は誰にも言うな。ルキアは少し故郷に帰っている事にしてくれ」
「わ、わかりました」
アルフの様子にただ事ではないと察し頭を下げ、部屋を出て行った。
「アルフ様、どうしますか? 」
「どうもこうも…ルキアは元の世界に帰ってしまったんだ。どうする事も出来んよ」
「そんな、ルキアもそんなの望んでません! 絶対戻って来ますよ! 兄上が、そんなんでどうするんですか? 」
カオの激にアルフは笑った。
「そうだな。カオすまない、心配かけて。きっと祈ってればルキアは戻ってくる。それを信じよう」
アルフは自分とルキアの運命を信じてみようと思った。
この繋がりをただのゲームで終わらせてしまうのはごめんだ。
初めて会った時みたいに、夢で話しかけていたら、また会えるかもしれない。
小さな望みだったがアルフはそれに賭けるしか無かった。
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ルキアが居なくなってから3ヶ月が過ぎた。
最後に見たという情報はルキアが宮殿に来る前に居た診療所だった。
姿を消した日ルキアが突然現れたと、ディーンが言っていた。
だが妹を呼びに行って戻ると、ルキアは既に居なかったという。
机の引き出しだけが開いていたと…。
それを聞いたアルフはルキアが前の世界に戻ったのだと確信した。
それならこちらでいくら探しても見つからない。
アルフはルキアの捜索を辞めるよう指示した。
不思議な事にサニーの侍医チヒロも居なくなっていた。
サニーは心配していたが、アルフはルキアと一緒に帰ったのだと思っていた。
この日、アルフは前にルキアと見た塔の上に居た。
1人でベンチに座り空を見る。
ルキアが居なくなってから寝る前は必ず来るようになった。
「ルキア…前の世界に戻り元気でやっているのか? 」
空に問いかける。
毎晩寝る時にルキアに話しかけてるが、なんの反応もない。
虚しく朝を迎えていた。
ルキアに会いたい、心から願っているが叶わない。
自分が国王の座を誰かに渡したら、もう一度戻って来るかもしれない。
しかし、アルフには出来なかった。
ルキアには会いたいが自分が国を背負ってるのも自覚している。
ようやく立て直しをしている所で放り出す訳には行かない。
せめてプレーンが国王になるまでは、責任を持つつもりでいた。
それでも自分の腕の中にルキアが居ないのは辛い。
アルフはしばらく空を眺めていたが、部屋に戻る事にした。
その時、
「アルフ様、アルフ様! 」
自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
アルフはキョロキョロと辺りを見回すが、誰も居ない。
ルキアの声に聞こえたようだか気のせいだったのか。
「とうとう幻聴まで聞こえてきたのか? 」
ため息をつくアルフに再度声が聞こえた。
「違いますよ! アルフ様! 」
もう一度声がする。
「ルキア? 本当にルキアなのか? どこにいる? 」
「ここです、アルフ様。下を見てください! 」
アルフが下を覗くと窓に立って上を見ているルキアが居た。
笑顔でこっちを見ている。
「ルキア!? 本当に? 」
「はい私です。アルフ様…うわっ! 」
最後まで言い終わらないうちにアルフの魔法で上まで舞い上がる。
ルキアを自分の腕に抱き頬を触る。
「ルキア…幻ではないのだな? 」
「はい、アルフ様。戻って来るのに時間がかかりすいません。早く戻りたかったのですが…」
アルフはルキアを強く抱き締めた。ルキアも抱き返す。
「ルキア…会いたかった…本当に会いたかった…」
「アルフ様…私も会いたかったです。会えない間、とても辛かったです」
アルフはルキアの顔を見ながら尋ねた。
「ルキア、お前に何があったのだ? 」
「はい、説明しますね。あの日…」
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「ルキア、具合悪い者がいると連絡が来た。一緒に来てくれ」
「はい、分かりました」
ヨリムに言われルキアは会場を後にし着いていく。
ヨリムの後ろを歩いてると不思議な感覚に襲われた。
普通に歩いてるがふわふわして進んでる気がしない。
どんどんヨリムと離れていく。
声をかけようとした時急に体がどこかへ持ってかれた。
「うわっ! 」
「おい、ルキア、まだか? ルキア、ルキア? あれ? 」
ヨリムが後ろを振り向いた時には、ルキアの姿は消えていた。
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「はあっ、今のはなんだったんだ? 」
突然の事にルキアは驚き、目をシパシパした。
「あれ? ここは…」
目を開けたルキアは自分が宮殿に居ない事に気づいた。
狭い部屋にいた。なんだか見覚えがある。
ルキアはキョロキョロしながら、部屋を見渡した。
「ここって…もしかして…」
その時後ろから驚いた声がした。
「うわっ! ルキア? えっ、なんでここにいるんだ? 」
ルキアが振り向くとディーンが居た。
「兄貴…もしかして、ここは…」
(最初に俺がいた診療所か? 部屋の様子が違うから、一瞬気づかなかったが、俺が使っていた部屋か…と言うことは、まさかゲーム終了なのか? 嘘だろ? こんな突然…アルフ様にも伝えてないのに? )
「ルキア、戻ってきたのか? それなら事前に言えよ! かなり驚いたぞ? 」
「ご、ごめん…兄貴、元気にしてた? 」
「ああ、ここは相変わらずだよ。ちょっと待ってろ、メイカを呼んでくる」
そう言ってディーンは部屋を出ていく。
自分もアルフに伝える為に宮殿に戻ろうと扉を開こうとしたらビクともしない。
「あれ? 部屋から出れない! どうなってるんだ! クソッ! 」
ディーンは普通に出て行ったのに自分は出れない。
やはりゲーム終了なのか…。
その時ガタッと音がした。
ルキアが振り向くと机の引き出しが開いていた。
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