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第4話 ごめんなさいの後は

コンコン、と控えめに扉がノックされて我に返る。 気がついたら身体がすっかり冷えていて、オレはそれなりの時間、考え込んでいたみたいだった。 「……はい」 返事をしたら、キイ……と小さく扉がきしんでまだ幼さが残るアールサス様が入ってきた。まだ目のふちと鼻の頭がほんのり赤い。ちょっとだけツキン、と胸が痛んだ。 「その……すまない、長い時間ひとりにさせて」 まさかのアールサス様からの謝罪にオレはびっくりした。お父様から諭されたのかも知れない。 「いえ、集中できたので問題ありません。お心遣いありがとうございます」 「……!」 オレの答えにアールサス様がびっくりしたように目を見開く。淡いピンク色の瞳がとても綺麗だった。 まずはオレの方から非礼を詫びようと思ってたのに先を越されてしまったけれど、ちゃんとごめんなさいだけはしなければ。 「私の方こそ、先ほどは失礼な物言いをしてしまい、申し訳ありませんでした」 深々と頭を下げる。顔をあげてみたらアールサス様はさらにびっくりした顔をしていたけれど、オレの謝罪の気持ちは分かってくれたみたいでホッとした。 そこで、早速考えていた台詞を言ってみる。 「あの、アールサス様の貴重なお時間をいただくのは申し訳ないので、もうお部屋にお戻りください。私は本があれば時間が潰せますので」 アールサス様の不満の大部分は、ウルクの慇懃無礼な態度と巨額の借金、あとはウルクの相手をしなければならない故に錬金術に使える時間が減ることだった。 母君を病で亡くしたばかりで、かつその莫大な薬代がもとで多額の借金を負うことになったアールサス様は、自身の錬金術のスキルが足りなかったばかりに母君を救えなかったと、その事をもの凄く気に病んでいた。 この時期のアールサス様は、本当に寝る時間も食事の時間も惜しいくらいに、錬金術に没頭したかったんだと、今のオレは知ってるから。 でも、アールサス様は急に困ったようなそぶりを見せた。 「え? ……いや、そんなわけには」 可愛い。 さっきまでは憎らしく思ってたのに、この戸惑うような顔が愛らしく感じてしまうんだから、あの記憶がもたらす効果は絶大だと思う。 「……アールサス様は錬金術師を志しているのだと父に聞いております。無為な時間は研究に充てた方がよほど有意義ですので」 「無為な時間……」 アールサス様が、僅かに眉根を寄せた。 今までの癖で、ちょっと棘のある言い方をしてしまったみたいだ。オレはもっと、言葉選びに気をつけた方がいいのかも知れない。

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