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第5話 まさかの展開になった
「アールサス様が婚約者の義務としてこうして時間を割いてくださるのはありがたいのですが、その時間で薬のひとつでも錬金していただいた方がよほど技術の進歩につながって有意義でしょう。私のことはお気になさらず」
お貴族様に「オレ」なんて言っていいのか分からなくて、アールサス様の前では自分の事は『私』呼びしてたから、これまで通りちゃんと猫をかぶる。
慣れない敬語だの難しめの言葉だのを選んで使うのに緊張して、棘のある言い回しになってた部分も多少はあるのかもな……って、ウルクの立場になって初めて理解した。
「……」
「妙案だと思ったのですが、何か不都合な点があるでしょうか」
「……客人をほったらかしておけるわけがないだろう」
「ここには山ほど本がありますし、充分楽しいのでお気遣いなく。見送りも不要です。時間がくれば勝手に帰りますよ」
「父上に叱責を受ける」
にこやかに言ったつもりなのに、ますます眉間の皺が深くなった。
「それは、確かにそうかも……。では帰る際にはお声がけ致します」
「そんなに僕と一緒に居るのが嫌なのか」
「まさか! 錬金術は繊細で集中力が必要だと聞いたことがあるので、人が周囲に居ない方がいいんじゃないかと思っただけで」
泣くほどオレと一緒にいるのが嫌なのはアールサス様の方でしょう、と言いたい気持ちをぐっとこらえて、当たり障りのない言葉でとっさにごまかした。
正直前世の記憶らしきものに晒される前は一緒に居るのも嫌だったけど、アールサス様に会いに行くときの跳ねるような浮き立った気持ちや、綺麗だなぁ……なんて見蕩れる感情を知ってしまった今では、この美麗さと可愛らしさが共存するお顔を見ているだけでちょっと心拍数があがってしまうくらいだ。
話すごとにアールサス様の好感度を下げてる気がするから、むしろ無言で、遠目で眺めるくらいがちょうどいい。
「人に見られたくらいで気が散ったりはしない。錬金術をやっていてもいいなら、僕の部屋に来るといい」
「え……」
「なんだ、その顔は。嫌なのか?」
「い、いえ! 行きます」
なんと。思いがけず自室にお呼ばれする流れになってしまった。こんなの、これまでの訪問時にはなかった事だ。
アールサス様にとっては見るだけで腹立たしいだろう顔だろうから、少しでも見る時間を減らしてやろうというオレなりの気遣いだったのに、逆にテリトリーに侵入する羽目になってしまった。
「行こう」
「あっ、ちょっと待ってください。本をいくつか借りてもいいですか?」
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