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第6話 優しい人だったかも知れない

「もちろん構わないよ」 あ、と思った。 この言い方。この表情。見た事がある。 ゲームの序盤から中盤まで、しょっちゅう聞く事ができる定番のセリフだった。 なんだか懐かしくて気持ちが弾む。 「すぐ取ってきます!」 待たせないように走って書架から本を取り出す。読もうと思っていた本を何冊か重ねて腕いっぱいに持って行ったら、アールサス様が小首を傾げたあと、オレの方に腕を伸ばしてきた。 「少し持つ」 「とんでもない! ちゃんと自分で持てる分しか選んでないので大丈夫です」 サッと躱したらちょっとだけ手が触れてしまった。アールサス様の眉間の皺が更に深くなったのを見て申し訳なくなる。 「あ、申し訳ありません……」 「違う!」 アールサス様が急にオレの腕を触って、次にほっぺたを触る。オレよりは大きい温かな手のひらがほっぺたをおおって、あまりの事にオレは言葉も出せずにアールサス様を見上げる事しかできなかった。 さっきまではちょっと可愛いなんて思ってたのに、こうして見上げていると格好良くも思えてついつい見惚れてしまう。 「冷え切っているじゃないか!」 アールサス様が青い顔でそう叫んで、オレの腕から本を奪い取る。本の束を小脇に抱え、もう片方の手でオレの手を引っ掴んでグイグイと引っ張って書庫から連れ出してしまった。 そのままアールサス様の部屋へと連行され、柔らかな毛布で包まれて温かいお茶を飲まされる。 「少しは温まったか? ……ああ、頬に赤みがさしてきたな」 オレの顔を覗き込んでちょっと安心した顔をしたアールサス様は、オレの頬や手を触って温かさを確かめている。 アールサス様、意外と力持ちだったな。 それに優しい。 こんなに優しいアールサス様は、この邸に通うようになって初めてだった。 ああ、でもそういう人だったかも知れない。 ゲームの中でのアールサス様との出会いは、無茶をしてケガを負った主人公にお手製のポーションを分けてくれて、無茶をしないように色々と助言をしてくれたのが始まりだった。 そうだ、元々アールサス様はとても優しい人なんだ。 ウルクへの態度が悪かったのは、突然放り込まれた理不尽な状況への反抗心ゆえだったのかも知れない。そしてそれは、オレ自身にも言えることだったと思う。 オレが態度を軟化させたら、こうしてアールサス様もこっちをいたわってくれる。 それが分かったのは、オレにとって大きな収穫だった。 心配そうな顔、ホッとした顔、驚いた顔。アールサス様の色々な表情を見ることが出来て、それも新鮮で嬉しかった。

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