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第8話 サイテー
思わず出た恨み言に、お父様はだらしない笑顔でこう言った。
「いやぁ、オレも噂で聞いてた時にはとんでもねぇなと思ったけどさ、借金を家財で払って貰うから査定してくれって商売仲間から言われて行った伯爵邸で恋に落ちたわけよ」
「へ……? 誰に? まさか、伯爵様じゃないよね?」
「伯爵様に決まってるだろ。じゃなきゃ借金の肩代わりなんかするかよ。 奥様を亡くされたばかりで憔悴された姿がなんとも儚げでなぁ。こう、守ってやりたくなるっつうか」
「……」
お父様も、うちのお母様がなくなってからそういう浮いた話なかったもんね……。でもそういう事、息子にこうも堂々とカミングアウトするかな、普通。
「いいところもあるんだぞ? 領民にも優しくて慕われてる領主様だし、ぼられることはあっても他者を陥れようなんて考えたこともない、貴族にしては珍しくとても清廉な方だ。そういう意味では尊敬できる伯爵様でな」
あ、フォローし始めた。
「そういうのいいから。で、伯爵様に惚れたお父様は莫大な借金を負担してあげたわけだ」
「まぁ莫大だが、オレにとっちゃあ痛手になるほどの額じゃ無かったしな」
うわぁ。どれだけ資産があるんだよ……。
「なんでそれでオレとアールサス様が婚約することになっちゃったわけ?」
「そんな巨額の融資、理由が無いとできないだろ。アールサス様は錬金術の才能があるようだし、将来的には儲けさせて貰えるかも知れないしな」
なるほど、婚約自体は不自然な融資を周囲に納得させるためには必要な手段だったんだ、とそこまでは理解した。伯爵様のアールサス様への話し方から考えても相当逼迫してたんだろうし、アールサス様だって領民のためにも破産は避けたいところだろう。
そこはしばらくの間、我慢して貰うしかないと思う。
「婚約自体は仕方ないとしても、それならこんなに頻繁にアールサス様と会う必要なくない?」
「それは、母君を亡くされてアールサス様が塞ぎ込んでしまってるって聞いてなぁ。ムリにでも人と話す時間を設けた方がいいんじゃないかって話になって。オレも日が合えば一緒に行けるし」
頭お花畑かよ。
「サイテー」
地を這うような声が出た。
「お父様の恋路に、オレ達子供を巻き込まないでくれる? この婚約でオレとアールサス様がどれだけ傷ついたと思ってんの?」
「え、ご、ごめん。傷つけようと思ったわけじゃ無いんだが」
「そういう意味なら人選サイアクだよ。そんなの知らないから、オレめっちゃ態度悪かった。アールサス様との関係サイアクなんだよ。多分一緒に居ればいるほど関係性悪くなると思う」
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