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第9話 交渉

「ええ!? そんな事になってんの?」 お父様が驚いたみたいに言う。 オレだって悲しいけど、それが事実だ。アールサス様に言っちゃった数々の言葉は取り消せないし、もうめちゃくちゃ悪い印象は着いちゃってる。あとはどれだけ挽回できるかってくらいで。 「当たり前でしょ。この多感な時期に突然さぁ、男同士で婚約者になれって言われてみてよ」 ちょっと考え込んだお父様は、しばらくして嫌そう~な顔をした。ほら見ろ。 「想像力なさ過ぎ」 「ごめん……」 「でも、どうせ今すぐ破棄するわけには行かないんでしょ。それこそ信用に関わる」 「お前……大人だな」 ギク、としたけどあえて全力でなんでもない顔をした。 「子供だってそれくらい分かるよ。事情は分かったから、アールサス様への態度はオレも気をつける。お父様の伯爵様への気持ちについてはアールサス様には内緒にしといてあげるよ。アールサス様だって多感な時期なんだから」 「ウルク……!」 別にお父様のためじゃない。アールサス様に知られたら、今以上に嫌われてしまいそうだからだ。 「その代わり、お父様も色々条件を呑んでよね」 「ほう、条件」 お父様が身を乗り出して興味深そうな顔をした。 「ぶっちゃけさ、婚約を解消してもいいタイミングっていつなの? 一年?」 「完済できるような奇跡がおこれば別だが、さすがにそれはムリだろうから関係性を浸透させるのにせめて二年は欲しい」 「分かった。じゃあ二年で婚約は解消して欲しいし、ちゃんと伯爵やアールサス様にも現時点でそう説明して欲しい」 つまりオレ達の婚約は絶対に解消できないような恐ろしいモノじゃ無かったわけだ。それなのに、あんなに苦しんでいたアールサス様が不憫でならない。お父様にはそれ相応の代償を払って貰いたいものだ。 けれど、まだ婚約が決まってから三ヶ月だ。正式な婚約解消には時間がかかるかも知れないけど、精神的にはアールサス様を早めに解放できると知って安心した。 「分かった、きちんと説明させて貰う」 お父様が神妙な顔で頷いてくれたのを見て、オレは心底安心した。これでアールサス様も少しは安心できるかも知れない。 「あと、アールサス様は今は本当に錬金に集中したい時期だと思うんだ。だから、お屋敷への訪問は最低限にして、その時間を錬金に充てて欲しい」 「なるほど。お前なりにアールサス様の事を考えた結果なんだな」 コク、と頷くとお父様が嬉しそうに微笑んでくれた。 「急に回数が激変するのもいらぬ憶測を生むから、三ヶ月ほどは月に一度、それ以後は三ヶ月に一度くらいの頻度に落としていくようにしよう。伯爵にはオレから話を通す」

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