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第31話 さすがに悲しいんだけど
ちょっと落胆する。そりゃ嫌われてるかなって思ってたから、学園では極力あわないように気をつけてたけど、姿を見かけただけでそんな機嫌悪くなるってどうなんだよ。
さすがに悲しいんですけど。
「それは、申し訳ありません」
「……? なぜ謝る」
「不快な思いをさせてしまったでしょうから」
「確かに不快な思いはしたが」
そこ、本人に面と向かってそんなにハッキリ言うかなぁ。
もう泣きたい。
今週のオレ、ギルドも含めて泣かされっぱなしなんですけど。
しかしそれをアールサス様にグチっても仕方がない。オレは出来るだけ丁寧な言葉を心がけつつ答えた。
「学園では出来うる限り姿を見せないよう気をつけてはいたのですが、不覚です。今後はより一層気をつけますので」
「姿を見せないように? ……なぜだ」
「なぜって、今ご自分でも仰ったでしょう。アールサス様が不快な気持ちになるからですよ。気に食わない婚約者の顔なんて学園でまで見たくないかなって思って、これでも気を遣ってるんです」
さすがにイラッとして口からありのままの言葉が出た。
自分のこらえ性のなさにがっかりする。ホントいいとこなしだよなぁ。
アールサス様の助けになりたいと思ったのに結局は危険に晒しそうになっただけだし、アールサス様の恐ろしいばかりのチートっぷりが明らかになった今では、錬成物は商業、冒険者ギルドのマスター達がいくらでも買い取ってくれるだろうし、その身はお父様が守ってくれるだろう。
はっきり言ってオレなんか、このままおとなしくアールサス様の前から消えてしまった方がマシなレベルだ。
……いや、それもいいかもな。
アールサス様のために何かできないかなって思ってたけど、アールサス様が嫌がってたオレとの婚約は二年後には解消されるわけだし、気に病んでた筈の借金なんてすごい錬成物を定期的にギルドに卸せばメキメキ減っていくんじゃないだろうか。
大好きなアールサス様に会えなくなるのは悲しいけど、それがアールサス様のためになるなら耐えられる。
あっ、錬成物と言えば、アールサス様が不必要な錬成物があったらソレも聞いて来いってギルドマスターから言われれたよね、そういえば。
ハッとして顔を上げたら、なぜか途方に暮れたような顔でアールサス様がオレをジッと見ていた。
「気に食わないなんて思ってない……」
アールサス様がポツリと呟く。
「えっ?」
「僕は、ウルクの事を『気に食わない婚約者』だなんて、思っていない」
「え……」
信じられない言葉を聞いた気がして、オレはアールサス様を二度見した。
いや、だってさっき学園で姿をちらっと見たくらいで不快な思いをしたってハッキリ言ったばっかりじゃん。
意味が分からないんだけど。
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