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第32話 【アールサス視点】困った
その日僕は、朝からずっとそわそわしていたんだ。
お父様から突然、今日はウルクとその父親が僕に会いに来るから、授業が終わったらすぐに帰ってくるように、なんて言われたからだ。
つい先日、次に来るのはひと月後だと言ったばかりなのに、その週の半ばにもう会いに来るだなんて、いつもよりもペースが速い。
嬉しい気持ちもあるけれど、どんな顔をしてウルクに会えばいいのか分からない。
なんせ、学園でウルクが他の生徒たちと楽しそうに話している姿を見かけてからというもの、僕の中になにかモヤモヤとした気持ちがわだかまったままだからだ。
僕にはあんなに楽しそうな顔で笑わない。
僕だけが特別に、嫌われているのかも知れない。
そんな不安が胸にある状態で、どんな顔でウルクに会えばいいのか。
迷ったまま邸に帰り、ウルクとその父親が来るのを悶々としながら待つ。いつもなら帰宅したらすぐに錬金にとりかかるのに、今日は何も手につかなかった。
***
「……なるほど、それではアールサス様は、一度作ったことがあるレシピを完全に再現することができるのですね?」
さっきから、ウルクの父親に質問攻めにされている。
なんなんだ、この状況は。
「できます。特に気に入ったレシピは記憶できるので、付加効果が無い普通の素材を使って錬金しても、以前作ったことがある付加効果や品質を付与して錬成できるんです」
「素晴らしい」
なんだかため息をつかれた。確かに錬金の本にはそんな事ができるとは書かれていなかったから、もしかしたら珍しい事なのかも知れない。
「ちなみに、ウルクに渡したポーションには『効果2倍』『美味しい』『疲れが取れる』の3つの付加効果がついた筈ですが、たとえば『美味しい』だけ抜くとか、他の錬成物に『効果2倍』だけをつけることは?」
「……できますけど」
「つまりアールサス様は、一度錬成したことがある付加効果を記憶して、自由に他の物にも付与できると?」
「……できますけど」
「凄まじいな」
さらに深いため息をつく父親の横で、ウルクは目をキラキラさせて僕を見ている。
可愛い。
ウルクに気に入って貰えたようなのは良かったけれど、彼を前にしてもやっぱりどういう顔をしたらいいのかは分からなかった。
ひととおり僕から聞き取り終えると、ウルクの父親は微笑んでこう言った。
「アールサス様の錬金術の才能は素晴らしい……いや、そんな言葉では収まりきれないただならぬ物です。伯爵と今後の対応について話し合いますので、しばらくウルクの事をお願いできますか?」
困った。
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