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第36話 【アールサス視点】喜怒哀楽に翻弄される
「オレが無茶したらアールサス様が危険な目に遭うって事、肝に銘じとけ、って言われて、オレ……」
ボロボロッとウルクの目から大粒の涙が落ちた。
「ごめんなさい……オレが迂闊なばっかりに、アールサス様を危ない目に遭わせるところだった……」
声を押し殺し肩を震わせて泣くウルクがけなげで、可哀相で仕方がない。僕は対面していたところから席を移してウルクの横に移動し、震える小さな肩をそっと抱いた。
「僕だって僕の練成物にそんな価値があるなんて知らなかった。ウルクが気に病むことじゃない」
「アールサス様、優しい……」
ウルクが驚いたように僕を見つめる。その目にちょっと熱が籠もっているような気がして、僕はちょっとドキドキしてしまった。
「……いや、うっとりしてる場合じゃない!」
ハッとしたようにウルクが言う。
やっぱりうっとりしてくれていたのかと嬉しいような、それを素直に言ってしまうところが可愛いような、どんな顔をしていいのか分からなくて困るような、色んな感情に翻弄される僕を尻目に、ウルクは決意に満ちた表情で僕に向き直った。
「アールサス様!」
「はい!」
急に力強く名を呼ばれて、勢いで返事をした。
「先ほどの父の聞き取りで、アールサス様の能力がいかに稀有で、かつ他者に知られると危険なものかはオレにも理解できました」
「そ、そうか……」
僕には今ひとつ理解できていないが、やっぱりそんなにも危険なんだろうか。
「オレ、どうしたらアールサス様にとって一番いいのかなって、さっき一生懸命考えたんです」
「ウルク……! ありがとう」
優しいのはウルクの方だ。
ウルクを誤解させてばかりの僕のために、それでも一生懸命に頭を悩ませてくれたというのか。嬉しくて、なんでも言うとおりにしようと思った。
……のに。
「オレ、今後は極力アールサス様に関わらないように気をつけようと思ってたんです」
「……は?」
一瞬で天国から地獄に落とされた気分だ。
「今の話の流れで、なぜそんな結論になるんだ」
僕はちゃんと言ったぞ。学園でもウルクと話せれば嬉しいって。
「オレ、最初はオレがアールサス様に素材を提供できれば元手もかからずに練成物ができるし、それをオレが売れば儲けがでて、アールサス様が欲しい素材を買ったりも出来るようになるんじゃないかって思ってたんです」
やっぱり優しい。この前ポーションを買い取ってくれた時にも似たような事を言ってくれたと思うけれど、畏まった言い方じゃないからか、ウルクが僕のためを思って考えてくれたんだと言うことがより伝わってきて、不覚にも泣きそうになった。
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