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第39話 不機嫌じゃないって分かったから

そう言ったっきり、アールサス様は黙り込んでしまった。 オレの方を見ようともせず、淡いピンクの薄い唇がきつく引き結ばれている様子は、やっぱり機嫌が悪いのかなぁと思ってしまうけれど、オレはもう知っている。この顔は別に、不機嫌なわけじゃない。 落ち着かないのは落ち着かないけど、とりあえずアールサス様が何か言い出すのを大人しく待つ事にした。 せっかくだから、ゲームの中ではこんなに間近に見る事はできなかった横顔を堪能する。 鼻筋、綺麗だなぁ。 ゲームで見てたときも透き通るみたいに白い肌だったけど、生で見るのは破壊力が違う。年齢的にも若いから、余計に肌とか綺麗なのかも知れない。 窓から差し込む日差しに、頬の産毛が透明に光って見えるのが綺麗だ。 やっぱりまつげも長いなぁ。 ふわふわの柔らかそうな淡い水色の髪も陽に透けて、これはもう妖精のような美しさじゃなかろうか。 この前まではいたたまれないと思ってた無言の時間も、こうしてアールサス様に見蕩れてたらあっという間だ。ていうか、いつまででも見てられる。 ほぅ……とため息をつきつつ眺めていたら、ふ、とアールサス様がこっちを向いた。 「……!」 淡いピンク色の目が大きく見開かれて、頬にさあっと赤みがさす。 うん、すっごい綺麗。 「す、すまない。考え事をしてしまった」 「いえ、お気になさらず」 むしろ眼福でした。 気まずい沈黙の時間も考え方ひとつで至福の時間になるという、世紀の大発見をしてしまった。 「その、前から気になってて……ひとつ聞いてもいいか?」 「はい」 「ウルクはどうやって素材を見つけてきているんだ?」 「オレはまだレベルが低いから、普通に草原とかで探してますけど。やっと森の入り口くらいなら入れるようになったところで」 「一人で採集に行っているのか? 危険だと思うんだが。先日もケガをしていただろう? あまり無茶をしないで欲しい」 「ああ、大丈夫です。お父様が護衛をつけてくれてるので」 「護衛?」 「はい。ギルドの申し込み方から採取の方法まで全部教えて貰って、今も毎日一緒に採取に付き合って貰ってるんです。オレと同い年だけど、すごい頼りになるヤツで」 「同い年!?」 すごいびっくりされた。 「そんな、大丈夫なのか? 現にウルクはケガしてるじゃないか。守り切れていないだろう!」 「あはは、そんなにしっかり守って貰ったらオレのレベルが上がらないじゃないですか。オレが死なない程度に守って貰うって雇用条件なんです」 「そんな……危険じゃないか……」

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