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第43話 オレは、甘い夢なんて見ない
「あ、でも今日お父様が色々聞き取りしたんで、それで方針が決まったら、僕でも買い取りして販売できるようになるかも……」
アールサス様のあまりの剣幕に、確証もない事をついつい口走る。けれどアールサス様はそれで溜飲を下げてくれたようだった。
「じゃあ、ウルクが売買できるようになったら、ウルクに売る」
そこまで言われると、急に不安になる。
オレの言い方が悪かったのか、アールサス様はすっかりギルドマスター達に不信感を持ってしまったようだけど、そもそもギルドマスター達はオレやグレイグ、そして何よりアールサス様の事を心配して厳しく言ってくれただけだから、妙な不信感は持って欲しくない。
これからアールサス様が作るだろう素晴らしい錬成物は、いずれギルドマスター達の力を借りて売買する場面が必ず出てくるだろうから、ここでアールサス様とも合意を取っておく必要がある。
「ありがとうございます。あの……」
「なんだ?」
「オレに売ってくれるってのはありがたいんですけど、オレがその錬成物をギルドやギルドマスターに持ち込むのは問題ないんですよね?」
そうでないと、販路がかなり限られてしまうんだけど。
恐る恐る尋ねたら、アールサス様はなんでもない事のように首肯した。
「もちろん構わない。ウルクに売ったあとはウルクの物だ。だから、本当はさっきのポーションの金も、なんだか申し訳ないと思っている」
「あれはオレの買い取り時の値付けが甘かっただけなんで、ご心配なく。今はまだ経験値が低くて、こんな事があるかもしれないけど、いっぱい勉強して、早く一人前になりますね」
「ウルクなら、きっとすぐだ」
優しい。
出会ったばかりの頃の顰めっ面が嘘みたいに優しい……!
浮かれそうになるけど、オレはその気持ちをぐっと堪えた。だって短期間でこれだけ感情が変わると言う事は、逆にもっともっと嫌われる事もあり得るんだから。
そもそもオレは、ゲームの中ではアールサス様に蛇蝎の如く嫌われていた悪役令息だ。今少し優しくされているからって、状況を楽観視する事なんてできない。アールサス様と一緒に幸せになれる道なんて、宝くじに当たるくらいのラッキーだって思って行動した方が得策だろう。
まずは個々の幸せを優先すべきだ。アールサス様が幸せに生きられて、かつオレもどんな形でもいいから楽しく生きられる道を探すんだ。
オレは絶対に、甘い夢なんか見ない。
自分に言い聞かせてから、アールサス様にしっかりと目線を合わせる。
「アールサス様」
「なんだ?」
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