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第48話 死んじゃうかと思った

こんな時、グレイグは本当にオレのお師匠さんなんだって強く感じる。頼もしい背中の右後ろを注意深く進んでいくと、森が切れて明るくなった一帯に出た。 「うわ……」 それは、なんだかとても不思議な光景だった。 丸く切り取られたような空間の真ん中に、さっきの食人花が煙を上げながら枯れたように燻っている。ピクリとも動かないところを見るに、食人花はなんとか仕留めることができたのかも知れない。 「さっきまでこんなに広い空間無かったよね……」 ぽかんと開けて空が見えてるけど、切り倒された木がごろごろと転がっている。 「どう考えても食人花が暴れて出来た空間だろうな」 「だよね。死んでるのかな」 「多分な、近づいてみるか。お前はちょっと離れてろ」 コク、と頷いてオレは木になんの被害も無いところまで下がって状況を見守る。手にはこっそり火炎球を握りしめた。いざとなったらコイツの出番だ。 「ゆっくりね。油断しちゃだめだよ」 「分かってる」 ゆっくりとグレイグが食人花へと近づいていく。オレも固唾を呑んで見守った。 もうちょっとで食人花に辿り着く。そう思った瞬間。 ビュッ!!! 唸りを上げて、一本のツタがまっすぐにグレイグの心臓めがけて伸びた。 「ヒッ……!」 「ぐっ……!!!」 ビシィッっと音がして、ツタが弾かれる。 グレイグも大きく後ろに一歩後ずさったけれど、そこでしっかりと踏ん張った。そのまま跳躍したグレイグを見て、オレはヘナヘナと腰を抜かす。 し……死んでなかった……。 死んで、なかった……! ズバッと食人花をまっぷたつに切り分けたグレイグは、最高にかっこよかった。 でも、食人花がしおしおとしおれ、力なくクタッとなって動かなくなっても、オレは動くこともできなかった。グレイグが食人花を思いっきり蹴って転がして、もう何度も何度も切りつけて核を取り出しても、まだ動けなかった。 グレイグがまだ剣を握ったままオレの方まで歩いてきても、それでも動けない。 だって、本当にグレイグが死んだっておかしくなかったんだ。 オレが欲を出したばっかりにグレイグが死んでしまうかも知れなかったって思ったら、震えが止まらなかった。 「うーわー、めっちゃ泣いてる」 「ご……ごめ、だって、グレイグ、しんじゃうかと思った」 「紙一重だったな」 「オ、オレが戻ろうって言ったから……ごめん……っ」 「アホか」 バシッと頭を叩かれた。 「戻るって俺自身が決めた時点で自己責任だ。いつだってこれくらいの覚悟は出来てる」

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