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第49話 【グレイグ視点】甘ったれ
「ねぇグレイグ、ちょっと戻ってみない?」
「はぁ!!!???」
そう言われた瞬間、コイツ馬鹿じゃねーのかって本気で思った。
たった今、死を覚悟するほどの強敵から命からがら逃げてきたってのに、わざわざそんな敵のところに戻るなんて、命を捨てるようなモンだ。
「いや、落ち着いてきたら思い出しちゃったんだよね。食人花ってどこもかしこも貴重な素材なんだよ。それこそ燃えた炭まで素材になる」
「いや、あれで死ぬかは分かんねぇだろ!?」
コイツ、さっき後ろからしてたえげつない音が聞こえてないのかよ! 嵐でもきたのかっていうくらい、ビュンビュン唸るような音はもちろん、バキバキ、ドカン! メキメキってヤバすぎる音がしてたのに。
今は急に静かになったけど、あれ絶対に食人花が暴れてた音だと思う。
「オレ、もう一個火炎球持ってるから、いざとなったら殺れる」
「マジかよ……」
ゲンナリした。
金持ちのボンボンの言いそうなことだ。
こいつは今、自分がどんなに恐ろしい事を口にしてるかなんて分かっちゃいないんだ。
手負いの魔物はなりふり構わず急所を狙ってくる。一瞬で命を奪われることだって多い。あの食人花だって、ダメージは大きそうだったし弱点の火属性のダメージだったからかなり弱っちゃいるだろうが、けして油断していい相手じゃない。
「だってこれはチャンスだよ。あんな大物、森の奥でしか普通遭遇しないんでしょ? だったらさ、経験値もガッポリ稼げそうじゃない?」
「ま、まぁそうだな」
どこまで脳天気なんだ、と驚愕する。
確かにその通りではあるんだが、命が惜しくないのか、と思ったら。
「ヤバそうなら使えそうなの他にもいくつか持ってるし」
「うー……」
なるほど。金持ちならではの余裕にガックリくる。さっきみたいな威力の物を複数持っているなら、確かに気が大きくなるのも仕方が無い。
とはいえ、使うヒマもなかったら意味ねぇんだけどな。
「もしかしたら魔石も手に入るかも」
「魔石か……あるかもな」
「魔石があったら売ったお金は山分け」
商人の息子らしくがめつく交渉してくる。しかも、経験値といい魔石といい、こちらが惹かれそうなポイントを的確に押さえてくるところが何とも小憎らしい。
さすがに俺も考え始めた。
正直、俺だけならあれだけダメージを負っている食人花を倒すことは可能だろう。
ウルクと違ってこちとら孤児だ。冒険者資格もないガキの頃から生きるために魔物を狩って暮らしてきたんだ。腕には少々自信がある。
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