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第50話 【グレイグ視点】まだ、死んでない
まだ熟練のおっちゃん達みたいに腕力はないけど、契約時にこいつの親父に買ってもらった質のいい防具と頑丈な剣もある。
少々ケガはするかも知れねぇが、死にはしないだろう。
甘ったれたコイツの目を覚ますためにも、瀕死の魔物の恐ろしさを体験させてみるのもいいかも知れない。
「うう……行くか……?」
迷っている風に声を出してチラリとウルクを見たら。
「行こ!」
満面の笑みで頷かれた。やっぱりまったく分かってない。
「しょうがねぇ! 行くか!」
……そう決意したものの。
食人花の方に近づいていけば行くほど、嫌な感じになってきた。
やっぱり、めちゃくちゃ食人花が暴れた形跡がある。よっぽど悶絶したんだろう、木はバッサバッサなぎ倒されてるし、あちこちから煙が上がってブスブスと嫌な音を立ててちょっと煙たいし。
真面目に戦わなくて良かった、と胸をなで下ろした。
「おそらく食人花が暴れたんだろうな。つまり、ヤツのツルが届く範囲に居るって事だ。気を引き締めろ」
「……はい」
さすがにこの様子を見てウルクも不安になったんだろう、おとなしく返事をする。
油断なく耳を澄ましても、もう暴れているような音はしない。
あれだけの火力だ、瀕死の重傷を負ったか絶命したか……だといいけど。植物系は意外と回復スキルがあったりするから怖いんだよな……食人花にはなかったと思うけど、固有スキルがある場合もあるから侮れない。
死んでてくれ、いや、ウルクの教育の為には瀕死くらいがちょうどいいのか。
自分の今の命を守る事と、将来の自分の命を守るための教育とを天秤にかけてモヤモヤとそんな事を思う。
鬱蒼とした森の中の筈なのに進むごとに明るくなって、ついにはぽかんと開けて青空が見えた。空は広いが足下にはそこかしこにデカい木が転がっていて、この空間が食人花が木々をなぎ倒してできた空間なんだと教えてくれる。
すげーわ。
マジで戦わなくて良かった。大物の食人花ってこんなに威力があるんだな。ぶっちゃけ負けてたかも知れねぇ。
開けた空間のド真ん中にはさっきの食人花がプスプスと煙を上げながら枯れたように燻っている。
俺は無意識に足を止め、ウルクを背中で守った。
まだ、死んでない。
前にこれの半分よりちっちゃい、ちょうどウルクくらいのデカさのヤツと戦ったことがある。それでも強敵だったけど、死んだときにはもっとうち捨てられた野菜みたいに、クタッと地面に垂れていた。
コイツはまだ、芯がある。多分『瀕死』だ。
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