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第51話 【グレイグ視点】紙一重

あとひと息で殺れるけど、瀕死なだけに強烈な一撃が来ることがある。前に倒したヤツは、確か心臓と頭を狙って直線的にツタを放ってきた。 「さっきまでこんなに広い空間無かったよね……」 俺の背中から顔だけぴょこんと出して、ウルクが小さく囁く。普段は気が強そうな顔してるのに、こういうところは猫みたいでちょっと可愛い。 「どう考えても食人花が暴れて出来た空間だろうな」 「だよね。死んでるのかな」 「多分な、近づいてみるか」 本当は死んでないって分かってる。でも、ウルクにはこれがどれほど危険な事なのかを、その目で見て欲しい。ただ、近くに居られると守れないし足手まといだ。 「お前はちょっと離れてろ」 食人花から目を離さずに言えば、ウルクは素直に俺から離れていった。ボンボンだが、こういうとこは素直で扱いやすい。今は自分が足手まといだとちゃんと理解できてるだけで及第点だ。 「ゆっくりね。油断しちゃだめだよ」 随分離れたところから、そんな事を言ってくる。 危ないことさせてるお前が言うな、という気もするけど、悪気なくただ心配してるだけだってのも分かってるから。 「分かってる」 それだけ答えて、ゆっくりと近づいた。 瀕死のアイツの射程距離がどの辺かによって、一撃が来るタイミングは変わる。剣を抜いて急所を守りながら近づいていく。 まだか。 まだか。 もうあと数歩も大股で近づけば、食人花に手が届く。 そう思った時。 ビュッ!!! 目の前の黒い塊から、一本のツタが飛び出してきた。 来た! 「ぐっ……!!!」 俺の心臓めがけて放たれた渾身の一撃を、なんとか剣の腹で防ぎきった。 弾かれたツタを勢いよく切り飛ばして、一気に跳躍し間合いを詰める。 できる限り上部からズバッと一刀両断し、ヤツの息の根を止める。うち捨てられた葉もの野菜のようにしおしおとしおれていく姿を見て安堵した。 だが、油断なんてしない。 思いっきり蹴って転がして、完膚なきまでに切りつける。 「おっ」 切り刻んでいたら核を見つけた。 取り出して剥いたら、ウルクの瞳みたいに綺麗な翠色のデカい魔石が出てくる。 マジで魔石がゲットできるとはなぁ。戻って良かった。 ホクホク顔でウルクの所に戻ったら、ウルクは目ん玉が溶けるんじゃないかってくらいダバダバに泣いてた。 「うーわー、めっちゃ泣いてる」 「ご……ごめ、だって、グレイグ、しんじゃうかと思った」 「紙一重だったな」 俺が食人花と戦ったことがあって、運良くヤツが瀕死の時にどんな攻撃をしてくるのか想像がついたから弾けたようなものだ。俺じゃなくて他のヤツだったら死んでたかも知れない。まさに紙一重だった。

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